日本の伝統を守り抜く

志摩時間 2024年夏号より

着物などの柄や紋様染めに使われる『型紙』は千年余りの歴史を持つ伝統工芸用具です。

川越市にある名刹、喜多院(きたいん)の職人尽絵屏風(しょくにんづくしえびょうぶ・国重要文化財)にも残されており、室町時代後期にはすでに存在していたと考えられています。
江戸時代になると鈴鹿市の白子(しろこ)・寺家(じけ)地区は染屋が多い京都への交通網が整備されていたこともあり、徳川紀州藩の領地となり、全国の型紙を生産。伊勢型紙として北は青森、南は鹿児島の染屋まで納める一大産地となります。

昭和8年に伊勢型紙は国指定重要無形文化財に指定されましたが、戦後は着物文化の縮小とともに伊勢型紙の需要も減少していきました。そんな中、鈴鹿市では昭和38年から伊勢型紙伝承者育成事業が始まり、平成3年に型紙職人を中心とした「伊勢型紙技術保存会(以下保存会)」が発足。2年後の平成5年には重要無形文化財保護団体(文化庁)に認定されました。

今回、経済産業省大臣認定資格である伝統工芸士で保存会副会長の兼子吉生(かねこ よしお)さんを訪ね、唯一無二の伝統を守り続ける職人としての想いをお聞きしました。

古民家が並ぶ鈴鹿市白子地区。兼子さんの自宅兼作業場に伺うとコツ、コツ、コツと彫刻刀を打ち込む音が聞こえます。「正確に彫るには一定のリズムが必要です」と話す兼子さんが伊勢型紙の作り方を教えてくれました。

型紙職人が彫る地紙(ぢがみ)は、染めに耐えられる強度にするため、3枚の和紙に柿渋を塗り貼り合わせます。型紙職人は絵師や染屋が創る絵柄をパターン化した小本(こほん)と呼ばれる紙を制作し、地紙に重ね、その柄を彫り進めます。

伊勢型紙の技法は紋様を彫刻刀で彫る突彫(つきぼ)り、紋様に合わせて彫刻刀を選び穴を開けるように彫る道具彫(どうぐぼ)りなど4つの技法があり、職人はそれぞれの技法で彫ります。兼子さんは道具彫の職人です。

作業は繊細で紋様に合わせて使う約3千本の彫刻刀は、自分で作ったものも多いそうです。兼子さんが彫っていたのは均一に並んだ青海波の紋様。曲線の太さや丸の大きさに合わせ3本の彫刻刀で仕上げていきます。

「単純な紋様ほど難しい。少しのずれでも染め上げると目立つのでミスは許されません」。なかには0.4㎜ほどの細かな紋様もあり、熟練の技と集中力が必要な仕事です。

兼子さんは祖父の代から続く3代目で、高校を卒業して職人の道に入り今年で51年。時代とともに変遷する伊勢型紙の業界を見てきました。
「私が伊勢型紙を始めたころは500人くらいの職人がいました。今は職人の高齢化や着物離れの影響で17名程しか残っていません。仕事は減っていると実感しますね」。

その理由としては嫁入り道具から和箪笥がなくなり着物を持たせなくなったことや、染色技術の機械化の影響があるそうです。
「伊勢型紙は江戸時代から同じ技法で作られています。微密で正確な作品でありながら機械にはない手彫りの温かさ、手仕事の趣きというのが魅力だと思います。本物の技術を何とか残していきたいです」。

志摩観光ホテルの宿泊者限定アクティビティ「伊勢型紙つくり」の講師を担当するのは「型屋2110」の屋号で活躍する伊勢型紙職人の那須(なす)恵子さん。

「岐阜県出身で2010年に伊勢型紙の師匠に弟子入りしました。屋号の2110はその先の100年も伊勢型紙が残っていますようにと想いを込め名付けました」。

那須さんは職人業だけでなく商品開発や体験会にも積極的に取り組んでいます。
「伝統的な技術は残しながら同世代の方々が見てかわいいと思ってもらえる作品も作っています。多くの方に伊勢型紙の魅力を身近に感じて欲しいです」。

那須さんの技法は彫刻刀で絵柄を彫る突彫り。ホテルアクティビティでは用意した絵柄から好みの物を選び、地紙に張って彫り上げます。

ハガキ、ノート、ポチ袋、夏はうちわから選び、水彩絵の具で染色します。染色は絵柄を重ねたり、グラデーションでの色づけ、また型紙の一部だけを使うなど自由な発想で。

「伊勢型紙は染色をするための道具という機能があります。その機能をお客様が愉しむことで、今後着物などに型紙で染め付けられた絵柄や紋様を間近で眺めた時に改めて本物の美しさを感じていただければとても嬉しいです」。

長い歴史の中、受け継がれた日本の伝統工芸を現代の感性で愉しむ豊かな時間をお過ごしください。

申込み 要予約(宿泊予約またはフロントスタッフまで)
開催日時 ホテルホームページ、アクティビティカレンダーにてご案内します。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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