伊勢まぐろ

技と想いの結晶

志摩時間 2024年夏号より

ブルーフィン三重から史跡 倭姫命腰かけ岩までは徒歩数分

度会郡南伊勢町神前浦(かみさきうら)は、倭姫命が休息を取ったとされる「腰掛け岩」の伝承が残る土地で、黒潮が流れるリアス海岸に面し、紀伊山地からの養分を含む水と海水が混ざるミネラル豊富な海域です。

養殖用の子どものマグロ(ヨコワ)漁が行われ、またマグロの餌となる鯖や鰯が隣りの奈屋浦(なやうら)で豊富に獲れるという地理的条件にも恵まれていることから、養殖のクロマグロ「伊勢まぐろ」が生産されています。

神前浦で「伊勢まぐろ」の養殖が始まった背景には、三重県全体での漁価の低迷に起因する養殖漁業の停滞がありました。
そこで、地元の水産業の振興や漁村の発展を目指すため、三重県漁連や県内漁協等が出資し、平成23年に株式会社ブルーフィン三重を設立、事業を開始しました。

作業現場へ向かうシェフの3人

樋口総料理長、塚原和食総料理長、栗野料理長にとっては伊勢まぐろは身近な食材。
初めての生産現場訪問を通して、生産に携わる皆さんの直向(ひたむ)きな姿勢と伊勢まぐろの魅力に触れました。

伊勢まぐろの養殖場(ポーラーサークル)

サークルが並ぶ様子は圧巻

港から漁船で約10分、波が穏やかな神前浦湾にある伊勢まぐろの養殖場は、直径50mの養殖筏「ポーラーサークル」16基が並ぶ圧巻の光景。海面近くでは多くの鳥が餌を狙って群がっています。ここでは1基あたり1800〜2000尾のマグロが育てられています。

社長の濵口さんとシェフの皆さん

「国内で最北東に位置するクロマグロの養殖場です。他に比べ海水温が低いので、程良い脂乗りと身の締まりが良いのが特徴です」と教えてくれたのは社長の濵口 肇(はまぐち はじめ)さん。

左から濵地さん、斎藤さん、粉川さん

「伊勢まぐろは赤身の深い味わいも魅力ですよね」と栗野料理長が話すと、
創業時より生産を担当する斎藤さんは「より天然に近い身質への差別化を図るため、餌の与え方も工夫しているんですよ」と養殖場を案内してくれました。

自動給餌機から放たれる餌の様子

与える餌は鰯などの魚に加え、魚粉などを練り合わせた「モイストペレット」。大量の餌やりが必要なため漁船に備えた2筒の自動給餌機から餌を飛ばす様子もダイナミック。

「魚だけを与えると栄養が偏ってしまいます。伊勢まぐろの特徴としてポリフェノールなどの入った飼料を混ぜているので、身質が良くなり色合いが長続きするんですよ」と斎藤さん。またマグロの運動量は海水温の低い冬は少なく夏は多いため、夏場は餌の量を増やしたり、含まれる栄養分を調整しているそうです。

斎藤さんは「養殖を始めた頃は与える餌の量や内容がわからず、大きなマグロに育てるまで苦労しました。今では毎年の記録データや経験を活かし、一年を通して大きく美味しい伊勢まぐろを育てています」。

続いて伊勢まぐろを美味しく食べてもらうために培ってきたこだわりの技があると、釣り上げを行う筏へと案内してくれました。

釣り上げの様子

60㎏前後に育った伊勢まぐろは、市場などからの注文に合わせ受注数だけを一本ずつ丁寧に釣り上げます。釣り上げ方法は餌を撒きマグロを引き寄せ、餌を付けた釣り針を投げ込みます。マグロが掛かったら電気ショッカーで通電させ船上に引き上げます。すぐに血抜き、神経抜き、内臓とエラの除去を行い、魚体を氷と滅菌した海水の水槽に入れ冷却。釣り上げてから冷却までなんと3分。

手早さと連携の良さにシェフの皆さんも驚きの様子。

釣り上げを行っていた創業当時から生産を担当する濵地さんに伺うと「マグロは暴れると身の温度が一気に上がる『身焼け』という現象が起き品質が劣化します。そのため釣り上げたら1秒でも速く処理することが大事です」。

塚原和食総料理長は「伊勢まぐろは味が良く何より身が美しい。特に寿司や刺身は良さがハッキリわかります。皆さんの弛まぬ努力の結晶ですね」と話します。

見事なワイヤーさばきでマグロを釣り上げていた濵地さんは「養殖場には沢山のマグロが泳いでいるので、簡単に釣っているように見えますがマグロは警戒心が強くデリケート。いつもと違う漁船が近くを通るだけで食いつきが悪くなります」。

濵地さんらと生産に携わる粉川さんは「慣れない頃は釣り上げの時、海に引きずり込まれそうになることから釣り針を改良しました。また作業工程を素早く行うなど皆で研究を重ねることで、安定した美味しさに辿り着きました」と笑顔で話します。

伊勢まぐろの魅力を語る古川さん(右)

港で水揚げされる伊勢まぐろをフォークリフトで運んでいた販売を担当する三重漁連の古川さんにも話を伺いました。

「私も現場に加わり伊勢まぐろの品質の良さを実感として伝えられるようセールスを行っています。釣り上げた翌日には市場に並ぶので鮮度の良さも強みですね。
現在の取引先は名古屋の市場など主に中京圏です。ブランド名も浸透し、年間通じて安定した身質に評価をいただいてます」。

鈴木さんと樋口総料理長

ブルーフィン三重は社員の大半が20代〜40代と若く、昨年の4月には県内の水産高校を卒業した女性初の現場社員、鈴木さんが入社しました。

「今は養殖場での給餌作業が主な仕事で、これから海中で網などを点検する潜水資格を取得する予定です。先輩方のように釣り上げにも挑戦したい。ひとつずつ達成していく喜びがやりがいです」と意気込みます。

ベテラン社員の濵地さんは「若手にもどんどん釣り上げ方を習得して欲しいです。自分もそうでしたが、少しずつステップアップして出来る仕事を増やす。身に付けた技を合わせることで成果が出ます。チームワークは欠かせません」。

最後に濵口さんに伊勢まぐろの生産への想いを聞きました。「海上での仕事が主なため安全を第一に考え、安定した生産で社員の生活を守る。働く人のための会社であり続けたいです。従業員がいるから美味しい伊勢まぐろが仕上がります。そして注文してくださるお客様に、これからも欠かすことなく出荷することです」。

社員の生活と顧客に対する責任感、そしてもうひとつ大切にしていることを教えてくれました。「お客様への感謝の気持ち、生産する社員への感謝です。社員にも、生産することの喜びとともに様々な感謝の気持ちを持って仕事に取り組んでもらえたら嬉しいですね」。

樋口総料理長は「品質が安定しづらい夏場でも良質なマグロの生産地が近くにあることは、とてもありがたいです。作り手への感謝の気持ちは仕事に表れ、人づくりにも繋がります。良い物を届けたいという思いが伝わりました。料理をする私たちもその想いを繋げていきたいですね」。

左から大塚さん、栗野料理長、粉川さん、塚原和食総料理長、濱地さん、樋口総料理長、斎藤さん、中村さん

総料理長 樋口 宏江 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼を提供。

伊勢まぐろ 二種類の調理法で

生産者の方々の努力と工夫により、季節を問わず変わらない品質の伊勢まぐろの美味しさを、火を入れたものと生との違い、また異なる調理法で食感、味わいを愉しんでいただきたいと考案しました。伊勢まぐろの生の赤身の美味しさ、トロの脂身のバランスが味わえるサラダ仕立てのひと品です。

旨味のある赤身は赤ワイン、醤油、蜂蜜、塩胡椒でマリネし、身を厚く切り出したらパン粉を付け高温の油でさっと揚げます。中の身はレアな状態でそのまま急冷蔵し、衣はサクッと、身は冷たく旨味を凝縮させます。マヨネーズで調味したアボカドのエクラゼを添えました。

伊勢まぐろのトロの部位はハーブ、塩、油で低温調理を施しました。ハーブが香るトロの脂と繊維質な身がとろける食感に。玉ねぎ、オリーブオイル、白ワインビネガーと南高梅の爽やかな香りを加えたソースとともにお愉しみください。

6月〜8月の「エレガンス」「アバンタージュ」にてご提供予定です。
※メニュー構成によりご用意できない場合があります。
フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)

伊勢まぐろ炙り 辛子酢味噌添え

旨味と脂乗りのバランスが良く、夏でも十分に生の美味しさが活きる伊勢まぐろの魅力を引き出しました。

トロのような脂と赤身の旨味を感じる背トロを使います。表面を軽く炙り、余分な脂を落としながら中の赤身をしっとりとした食感に仕上げます。伊勢まぐろのとろける食感と旨味が酢味噌の柔らかな甘さとともに広がります。醤油はマグロ独特の鉄分からなる酸味が強調され美味しく味わえるのですが、ここでは辛子をほんのりと効かせた酢味噌を合わせることで酸味を抑えマグロ本来の味を引き立てました。

マグロと相性が良いトマトは湯葉とキャビアを乗せて。和食の仕立てとは趣を変えた、夏らしくさっぱりとお召し上がりいただける夏のひと品です。

6月〜8月の「山紫水明」、「匠」でご提供する予定です。
※入荷状況によりご用意できない日があります。

夏の御食つ国会席

伊勢志摩の夏を告げる鮑と旬の鱧、そして伊勢まぐろを中心にした夏の御食つ国会席。

昆布の上に鮑を並べて酒を振り、低温調理を施した鮑の松前作りは、鮑に昆布の旨味が加わった濃厚な味わいです。伊勢まぐろの大トロは寿司、中トロは造り、焼き物は炙った背トロ、そば寿司には赤身など部位の味や食感の違いをお愉しみいただけます。

南高梅の天ぷら


御浜町で生産される南高梅の梅干しは伊勢海老の紅梅煮、白身魚の梅肉醤油焼き、鱧の湯引きや吸物などに合わせました。車海老と煮鮑の天丼、鱧玉締め丼の選べる食事には梅干しの天ぷらをお付けします。
身が柔らかく甘味のある梅干しは熱を加えることで酸味がまろやかに。柔らかな身はサクッとした衣に包まれ、また違った美味しさです。

伊賀牛の紫蘇揚げ、蒸し鮑バター醤油焼き、伊勢まぐろの湯引きからお選びいただく料理一題など季節の味覚も彩り豊かにお届けします。
 

夏の御食つ国会席
6月1日(土)〜8月31日(土)
¥35,000
※入荷状況により内容が変更になる場合があります。
和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30)
ご昼食 11:30-13:30 (L.O.13:00)
※ご昼食は4名様から。1週間前までのご予約制。

鮑の鉄板昆布蒸し

夏の夜にお届けする2つの鉄板焼き料理です。

漁期を迎える鮑は鉄板で仕上げる昆布蒸しに。海藻を食べる鮑は相性の良い昆布の上に乗せ軽く蒸します。鮑に昆布の旨味が加わり柔らかな食感に。そのままでも充分に滋味深い味わいですが、2種のソースで変化をお愉しみいただけるようにしました。南高梅の梅干しのソースは、酸味と甘味が鮑の旨味を引き立てます。鮑の肝のソースは刻んだえんがわ、アオサバターを加え濃厚な旨味と磯の香り、えんがわの食感もアクセントに。

伊勢まぐろの炙り

伊勢まぐろは炙りでご用意。身を醤油漬けにした後、冷蔵庫で寝かせ味を馴染ませたら、冷えた状態のまま身を炙ります。仕上げにすだちとワサビを添えて。外は香ばしく、中は冷たくしっとりとした食感。凝縮されたまぐろの旨味をご堪能いただけます。

6月〜8月の「夏の味覚ペアディナー」でお召し上がりいただけます。
お二人様 ¥70,000
鉄板焼レストラン「山吹」 ザ クラブ2F(要予約)
ランチ(土日限定) 11:30-13:30(L.O.13:00)
ディナー      17:30-21:00(L.O.19:30/前日 20:00まで)
※水曜日定休(8月14日を除く)。
※ランチは4名様から。1週間前までのご予約制。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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