臼井織布の店内に展示してあるカラフルな格子柄

時代を作った伊勢木綿を、現代に継承

志摩時間 2023年夏号より
 

伊勢木綿の着物

ぬくもりを感じるやわらかな肌触り、軽やかな風合いが特徴の三重県指定伝統工芸品「伊勢木綿」は、単糸(たんし)という繊維に撚りをかけた糸で織られます。

綿のような糸は引っぱると切れてしまうほどやわらかで、織り上げるには特別な技術が必要です。伊勢木綿の歴史は古く、普段使いの木綿着物の反物として約400年。江戸時代に奢侈(しゃし)禁止令で農民や町民の衣類が綿や麻に限定されたことで木綿の反物の需要が拡大。伊勢、三河、河内などが主な産地になりました。

なかでも伊勢国(いせのくに)(伊勢平野全体)は伊勢湾に面しているため、木綿栽培の肥料として使われていた干鰯(ほしか)の原料となるイワシが豊富に捕れました。また綿織物を作る以前から絹織物の伊勢紬(いせつむぎ)、麻織物の津もじという織布技術もあり、伊勢木綿の生産は順調に進み、江戸や京都、大阪を中心に大流行しました。

伊勢木綿は江戸時代に作られた日本初の図説百科事典「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」に木綿の中で「伊勢は〝上(じょう)〟」と記されているなど最上の格付けとして扱われていたそうです。

津市一身田町にある真宗高田派本山専修寺(せんじゅじ)[高田本山(たかだほんざん)]のお膝元で唯一、伊勢木綿を織る技術を持ち、今に継承する、臼井織布(うすいしょくふ)を尋ねました。
 

伊勢木綿の魅力を語る臼井さん

臼井織布では主に木綿着物用の反物を製作し、京都の呉服店やアパレルブランドなどに出荷しています。また伊勢木綿を使ったオリジナルの衣類やバッグなど、様々なグッズも販売。社長の臼井成生(うすい なるお)さんに工房をご案内いただきました。織機に取り付けるための経糸(縦糸)を組む工程にはたくさんの柄のパターンがあるといいます。「伊勢木綿の代表的な格子柄は、昔から残っているものに加え、現在も試行錯誤しながら変化させています。長く残り続けている柄は人気があるということ。しかし、伝統を守るだけでなく、常に新しいことを取り入れていますよ」。

明治時代から今も現役で働く織機

隣りの部屋では40台の織機がリズミカルな音をたてながら動いています。柄のある反物は一反織り上げるのに約1日掛かるそうで「私が子どものころ、工房には10名程の職人が住み込みで働いていました。織機は豊田自動織機製で、これらすべて明治時代から使い続けています」と話す臼井さん。地元の織物についても教えていただきました。

「明治時代はこの辺りに織屋や染屋など100軒ほどあったと聞いています。また津は大きな紡績会社が5社もあった珍しい町。働き手が足りず市外や県外から人を雇うほど織物の産業が盛んでした」。

しかし第二次世界大戦の戦火で津市の大部分は空襲で焼失。また着物文化の衰退により反物の需要は減少。そんななかでも臼井織布は伊勢木綿の生産を続けてきました。
昔ながらの技法を守りながら現在、唯一の伊勢木綿の織物業としてこだわり続けていることがあるといいます。

「やわらかな肌触り。これが伊勢木綿の一番の魅力です。その理由は糸にあります。」

臼井さんは続けます。
「通常の綿織物の場合、数本の糸を強く撚った撚糸(よりいと)を使い、目が詰まった布にするので固い質感で洗うと縮みやすくなります。しかし伊勢木綿の場合、弱く撚った単糸(たんし)(弱撚糸)を使うので柔らかく仕上がり、洗うと糸が元に戻ろうとするので縮みにくく、使い込むほど味が出て、長く使っていただけます」。

通気性や保湿性も良く日本人の毎日に寄り添い続けてきた伊勢木綿は、先人の知恵が詰まっています。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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