左から杉原シェフソムリエ、栗野料理長、北村さん、樋口総料理長、塚原和食総料理長

伊勢ひじきのふるさと

志摩時間 2023年夏号より

伊勢志摩地域で生産される「伊勢ひじき」は三重ブランドのひとつ。その歴史は古く、平城京の木簡には伊勢志摩の海藻類が納められていたという記載があり、ヒジキも含まれていたとされています。鳥羽や志摩で採れるヒジキは、木曽三川や三重の河川から山の豊富な養分が流れ着く伊勢湾の良質な漁場で育ちます。今回、伊勢ひじきの海藻加工を行っている創業寛政年間(約200年前)の北村物産に伺い、伊勢ひじきの歴史やこだわりを教えていただきました。

伊勢市の最北部に位置する北村物産は伊勢ひじきの生産で最も歴史のある会社です。加工場は櫛田川と宮川に挟まれ、山から流れる伏流水に恵まれた伊勢平野にあります。収穫される場所から車で1時間程の離れた場所まで運び生産する理由を社長の北村裕司(きたむら ひろし)さんが説明してくれました。

「この地域の特徴や気候条件ですね。ここはヒジキの加工に必要な大量の真水が確保できます。また昔はヒジキを天日で乾燥させていたので年間の降水量が少ないということも良質な〝伊勢ひじき〟作りにつながっています」。北村物産の工場から約300m東には波が穏やかな伊勢湾が広がり、陸路が整うまでは三河や江戸への海運がヒジキを出荷するのにも適していたそうです。

「伊勢ひじきの特徴は、湯がかずに蒸す製法です。昔ながらの伝統的な加工方法で水っぽくならず、ひじきの味が濃いまま残ります。手間が掛かりますが、これが私たちの長年のこだわりです」。
北村物産が製品化している伊勢ひじきは「芽(め)ひじき」と「長(なが)ひじき」があり、芽ひじきは葉っぱの部分、長ひじきは茎の部分となります。塚原和食総料理長は「和食では長ひじきは縁起物としてよく使われる食材です。またやわらかい芽ひじきは煮物やひじきごはんにすると風味もよく美味しいですね」。北村さんは「私たちは長く、太く、歯ごたえと風味が良いヒジキを追求しています。しっかりとした食感と磯の香りを愉しめ、味が濃いので酢のものにも相性が良くおすすめですよ」と話しが弾みます。
 

続いてヒジキの加工を見学。産地が記された袋に入った加工前のヒジキが積まれています。「伊勢志摩では4月から5月の大潮の日に、潮が引いたタイミングで一斉に収穫をします。私たちは毎年必ず産地でヒジキの状態を確認しています」。

漁師や海女が収穫、天日干しの後出荷されたヒジキからさらに良質なものを選別し、仕入れているそうです。加工場ではまず、ヒジキに付いた塩を洗います。「ヒジキは繊細で産地や年によって状態が違います。職人は水洗いの時の手の感覚で蒸す時間を決めています。理想の伊勢ひじきに仕上げるには長年の経験が何より大事です」。

蒸し上がったひじき工場には濃厚な磯の香り

最後に北村さんは伊勢ひじきの美味しさの理由をもうひとつ教えてくれました。

「伊勢志摩の漁師さんは朝廷に納めるため上質な海藻を採ってきた文化があるからか、若く美味しいうちにヒジキを採ります。育ち過ぎないので気胞がなく食感も良い。

私たち加工者は、そんな漁師さんたちに感謝の想いを持って製品作りを行わなければいけないと考えています。

伊勢ひじきの魅力を語る北村さんと感触などを確かめる樋口総料理長

長年、伊勢志摩の漁村と関わってきましたのでお客様には伊勢ひじきを通じて産地にも興味を持ってもらいたいですね」。

樋口総料理長は「こだわりの伊勢ひじきの美味しさの理由は素材の良さだけではなく、その特徴を知り尽くした加工業の方々の長年の技術と愛情なのですね。私たちも素材の良さとともに加工の技術も活かした料理へと繋いでいかなければ」と語りました。

伊勢ひじき サラダとガレット

もちっとした食感や磯の風味が豊かな伊勢ひじきを主役にしたひと皿をご用意しました。
イメージしたのは、ヒジキのサラダです。にんにくで香り付けしたオリーブオイルで香味野菜を炒め、下湯がきした長ひじき、蜂蜜、バルサミコ酢、白ワイン酢、柑橘果汁を入れて煮詰めます。そこに炊いたもち麦を加えて味を馴染ませます。酸味と甘味が染み込んだひじきが、夏にぴったりの爽やかな味わいです。
芽ひじきは小麦粉にパルメザンチーズを混ぜた衣で揚げ、磯の風味と味わいを凝縮させました。仕上げに細切りにした鮑や、食感が良い伊勢海老の身を飾り完成です。
豊穣の海で育ち、漁師さんや生産する方々がこだわり抜いた伊勢ひじきの特徴を活かした、伊勢志摩の味です。

6月〜8月の「デギュスタシオン」コースでご提供する予定です。
※入荷状況により提供期間が変わる場合があります。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

鮑や鱧など旬を迎える食材を中心に、伊勢ひじきを取り入れた夏の御食つ国会席です。
鮑は、肝を裏ごしした肝醤油と香ばしい香りのバター醤油と二つの味を焼物で。またお造りでは昆布で鮑を挟み旨味を染み込ませながら低温調理し、磯の香りと程良い食感を引き立たせました。鱧はふっくらと仕上げた茶碗蒸し、身の締まった落としはお造りで。滑らかな食感が加わった葛打ちは縁起物でもある長ひじきとともに吸物に仕立てました。磯の香りと食感は伊勢ひじきならでは。箸休めのそば寿司は車海老と穴子とともに巻きました。
食事は鱧の照り焼き丼、蒸し鮑と芽ひじきのかき揚げ天丼、鮑、鱧、車海老のにぎり寿司からお選びください。料理長おすすめのひと品「料理一題」でも夏らしく冷菜でご用意しました。松阪牛のモモ肉の湯引き、蒸し鮑、伊勢海老の焼き霜とお好みの素材でお愉しみください。

夏の御食つ国会席
6月1日(木)〜8月31日(木)
¥33,500

伊勢ひじき 美味彩々

和食でも馴染み深いヒジキは、磯の香りが出汁との相性も良い食材。伊勢ひじきを様々に味わえるようご用意しました。芽ひじきを旬のサザエと合わせ土鍋炊きご飯に。磯の風味が香り立つひと品です。また芽ひじきを鮑、伊勢海老と合わせた贅沢なかき揚げに。焼雲丹と鱧の吸物には長ひじきを合わせます。しっかりとした食感と味わいをお愉しみください。

6月〜8月の特別会席「匠」(土鍋炊きご飯)、「夏の御食つ国会席」(吸物、かき揚げ)でお召し上がりいただけます。
 

和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30)
ご昼食 11:30-13:30 (L.O.13:00/2日前20:00まで)
※現在営業時間を一部変更しています。※ランチは4名様より承ります。

やわらかく口当たりの良い芽ひじきをガーリックライスで。水で戻した芽ひじきを松阪牛のすじ肉と煮込み、旨味と香りを染み込ませました。ヒジキは米との馴染みも良いので食感よく仕上がります。三重県産米の「結びの神」とヒジキの食感、松阪牛の旨味。伊勢志摩ならではの味わいを鉄板焼で。

6月〜8月の三重の食材と夏の味覚ペアディナーでお召し上がりいただけます。
 

松阪牛サーロインステーキ 鉄板すき焼き

松阪牛フィレステーキ 鉄板焼

松阪牛カイノミ 炭焼き燻製

松阪牛イチボ 紫蘇ホットロール

松阪牛の部位をそれぞれの特徴に合わせた調理法で仕上げる夏のペアディナー。サーロインは薄切りにし、鉄板でさっと火を通し水菜を巻き、山椒などを加えた自家製の割り下とともにいただくすき焼き風の仕立てに。フィレの鉄板焼は柔らかな食感と上品な味わいにわさびを添えて。希少部位のカイノミはキメが細かく、肉目が詰まっているのが特徴。燻製でゆっくり火を入れることで噛むほどに広がる脂と香り。赤身に程良い脂が乗ったイチボは鉄板で焼き、大葉としば漬けとともにパンで巻きます。酸味とさわやかな香り、松阪牛の旨味をまとめた後を引く味わいです。それぞれの部位が持つ甘味、旨味、脂のバランスをご堪能ください。松阪牛の産地ならではの贅沢な愉しみ方をご提案します。

6月〜8月の三重の食材と夏の味覚ペアディナーでお召し上がりいただけます。
お二人様 ¥67,000

鉄板焼レストラン「山吹」 ザ クラブ2F(要予約)
ランチ(土日限定) 11:30-13:30(L.O.13:00/2日前 20:00まで)
ディナー      17:30-21:00(L.O.19:30/前日 20:00まで)
※現在営業時間を一部変更しています。※ランチは4名様より承ります。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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