イチゴの産地を復活させた、希望の品種

志摩時間 2023年春号より

風光明媚なリアス海岸に面する志摩市は、年間平均15度の温暖な気候を活かしたイチゴ栽培が盛んな地域です。ここで生産されているイチゴの多くは、三重県農業研究所が約20年掛けて開発した三重県のオリジナル品種「かおり野」と、食べる宝石と称される高級品種の「レッドパール」です。

今回、JA伊勢が運営するイチゴ農園「長沢ファーム」に、樋口総料理長、塚原和食総料理長、栗野料理長、杉原シェフソムリエと伺いました。長沢ファームは「かおり野」の試作にも関わってきたイチゴ栽培施設。イチゴ産地として、志摩の発展を目指す生産者の想いや、新規就農者の夢など地域を明るく照らす未来への取り組みを取材しました。
長沢ファームは約1㌶の敷地にある19棟のビニールハウスで「かおりの野」と「レッドパール」の生産を行っており、イチゴのほとんどは摘み取り体験として消費されているそうです。ビニールハウスは高設栽培という生産方法で高さ1㍍ほどの位置に苗を設置し、栄養や水分は液肥として与え育てています。

ファームでのイチゴ栽培の中心的存在である福岡正幸(ふくおかまさゆき)さんは、イチゴ農家の2代目。JA伊勢がファームを作る際にその経験から職員となりました。「父の代も含め志摩のイチゴ農家は他の品種を育てていたのですが炭疽病(たんそびょう)などの病気になると、イチゴは全滅します。その難しさから生産者が減っていきました。そこで三重県が開発した比較的病気に強いかおり野と、温暖な志摩の気候に合った大粒のレッドパールの生産に切り替えました」。
志摩で高品質なイチゴをより多く安定的に生産するために平成18年、長沢育種苗施設(現長沢ファーム)が開業します。

実の中の果肉まで赤いレッドパール

かおり野はその名前のとおり桃やリンゴのようなフレッシュな香りと甘味、レッドパールは酸味と甘味のバランスと美しい赤い果肉が特徴。「どちらもひとつの株から育てる実の数を制限したり、芽や開花する前の花を摘み取って実に栄養が集中するように育てています」。
高級品種でもあるレッドパールの収穫量は一般のイチゴに比べて少ないこともあり、ほぼ市場に出回らず志摩以外では名古屋の一部のフルーツ専門店や百貨店で手にすることができるそうです。レッドパールを試食した塚原和食総料理長は「甘味と酸味のバランスが良いですね。お客様に美味しく新鮮な状態でご提供できるのは産地ならではですね」。
イチゴ栽培40年の福岡さんは「イチゴは繊細で同じ品種でも気候や受粉の状態により毎年味が変わります。成長の様子を確認しながら水や養分の量を調節するなど手が掛かる箱入り娘なんです。どこよりも美味しいイチゴを育てたいですからね。今でも日々、研究中です」と話してくれました。

イチゴの料理について語り合う塚原和食総料理長(左)、杉原シェフソムリエ(中)、栗野料理長(右)

長沢ファームでは持続的な農業を実現するため、農林水産省の農業生産工程の管理制度である「JGAP」を取得。また地域の福祉施設との農福連携に取り組んでいます。車椅子が必要な方も働けるよう、プラント間も広く設計し、幅広い雇用を進めています。

摘みたてのイチゴを手にする杉原シェフソムリエは「志摩産イチゴのフレッシュな香りや甘味は、シャンパンやワインだけじゃなく日本酒にも合いますね」。

レッドパールの特徴を聞く樋口総料理長

樋口総料理長は「地元志摩のイチゴは料理でも使っていきたいですね。イチゴの魅力や可能性を生産者さんとともに発信できたら素晴らしいと思います」と想いを語ります。
福岡さんは「嬉しいことに志摩のイチゴ、特にレッドパールは需要が伸び続けています。これからさらに地域で展開するにはイチゴ農家を増やす必要があります」とこれからの課題を教えてくれました。

志摩市地域おこし協力隊の高橋さん

長沢ファームでは就農希望者の育成と独立もサポートを行っています。
現在は志摩市地域おこし協力隊として、大阪出身の高橋奎介(たかはしけいすけ)さんがイチゴ農家となるべく研修中。高橋さんは「イチゴ農家になりたくて志摩に移住しました。今まで関わった人、これから関わる人が幸せになる仕事をするのが目標。僕が作る美味しいイチゴでたくさんの人に幸せを届けたい。ファームの皆さんに学びながら、将来は国内外の方に志摩の魅力を感じてもらえるような体験型の農場を持ちたいと考えています」と笑顔で語ります。

一度は縮小した志摩産イチゴは、生産者の弛まぬ努力、料理人との連携、次世代の育成で新たな地域ブランドを目指しています。
たわわに実った美しい食べる宝石が、地域の輝く未来への道筋を照らし出しているかのようです。

志摩観光ホテルでは50年以上前から、その土地にある食材の可能性を最大限に引き出した料理を届けてきました。料理を通じて地域の魅力をお伝えする「伊勢志摩ガストロノミー ランチ賞味会」では毎月地域の食材をテーマに特別メニューをご提供。生産に関わる方をゲストスピーカーにお迎えして開催しています。
 

2022年12月に行われた賞味会では、「志摩産イチゴ」をテーマに、フレッシュやセミドライ、ピュレ状など、イチゴの香り、食感、味わいを多彩に表現した料理をお愉しみいただきました。
お客様からはイチゴのリゾットなど組み合わせの新しさや鹿肉にイチゴのソースやコンフィチュールを合わせた優しい味わいへのお褒めの声。鰆とイチゴの料理にはロゼワインのペアリングをご提案。味と香りが引き立つと嬉しい感想をいただきました。
 

ゲストスピーカーとして参加したJA伊勢の堂岡誠さんは、志摩産のイチゴ栽培に長年関わってきました。「これまで志摩のイチゴ栽培に関わってきましたが、今日はイチゴの魅力を再発見できました。お客様の声を生産現場にもぜひ伝えたいです」と喜びの表情。生産者とお客様をつなぐ取り組みに今後もご期待ください。

総料理長 樋口 宏江 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 
シェフソムリエ 杉原 正彦 2011年全日本最優秀ソムリエコンクールセミファイナリストなど数々のコンクールで入賞。伊勢志摩サミットでは、日本ワイン選考委員会メンバーと飲料サービス責任者を担当。JSAソムリエ・エクセレンス。
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼きを提供。

イチゴのリゾット

イチゴは赤く鮮やかな色で、見た目や味も華やか。
お食事の時間が楽しい気持ちになるような料理をイメージしました。イチゴは野菜の一種でもあるので、実は料理とも相性が良い食材です。

志摩産イチゴを温かなリゾットに。
意外な組み合わせですが、イチゴの良さを引き立てる旬の季節ならではのお料理です。三重県産米「結びの神」ともち麦をチキンブイヨンで炊き、志摩産イチゴ、バター、パルメザンチーズ、パルマ産生ハムを合わせて旨みとコクを加えます。

ホテル伝統のチキンブイヨンの旨みがしっかりと入ったリゾットは、もち麦の食感がアクセント。生ハムのほのかな塩味が加熱したイチゴの甘みを程よく抑え、酸味と産地ならではの新鮮な香りをバターやチーズが優しくまとめます。
料理を構成するそれぞれの味や香りが主張し過ぎることなく、バランス良く一体となったひと皿。美しい色と繊細な味わいをお愉しみください。
 

海の幸サラダ イチゴのドレッシング

志摩産イチゴ「かおり野」の香り、甘みを活かし、海の幸の旨みとともに軽やかに味わって頂きたいと考案しました。

宮川産わさびの爽やかな辛味を加えたうすい豆のピュレをお皿に敷いたら、魚介と野菜を彩りよく盛り付けます。車海老、アオリイカ、鮑に鰆や真鯛などの春のお魚を使います。魚介の異なる食感や味わいに加え、ロメインレタスや紅芯大根、アスパラなど春らしい野菜の瑞々しさも感じて頂けます。

イチゴのドレッシングは果実を裏ごしし、レモンを加え色鮮やかに。オリーブオイルと塩のみの味付けでイチゴそのままの魅力を活かしました。フレッシュな苺も飾った心躍るひと皿です。

3月〜5月の「デギュスタシオン」コースにいずれかの料理をご提供する予定です。
※入荷状況により提供期間が変わる場合があります。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

春の三味 伊勢海老、蒸し鮑、鰹。

食の宝庫である三重の食材を、日本酒とともにお愉しみいただくことをイメージしたお料理です。
上品な伊勢海老の香りと食感に、濃厚なカラスミを合わせた奥深い旨味。磯の香りと滋味深い味わいの鮑は山椒で煮付け、香りと辛味のアクセントを。カツオは、内臓の希少部位を塩漬けにした酒盗と和えました。その名の通りお酒が進むひと品です。
 

三重県産イチゴと春の貝

日本料理ならでは表現にとどまらずに遊び心を加えた春のひと品。
志摩産イチゴと貝を合わせました。アコヤ貝の貝柱には黄身酢を、サザエには裏ごしした絹ごし豆腐に柚子を利かせた白和えです。クリーミーで酸味のあるソースと甘くて酸っぱいイチゴは相性が良く、貝の食感と旨味が際立ちます。
洋皿に盛り付け、見た目も華やかに。素材一つひとつの魅力を存分にお愉しみください。

3月〜5月の会席コースでご提供する予定です。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。

和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

冬の御食つ国会席

気持ちも軽やかになる春。食感や彩りにもこだわったアフタヌーンティーをお届けします。
イチゴの爽やかな酸味と甘味を活かすため、イチゴのフレンジェはピスタチオのクリームを、タルトフレーズはカスタードとアーモンドのクリームを合わせました。

新茶の季節となる5月からは香り高くほのかな苦味のある伊勢茶が主役。奥行きのある味わいのかぶせ茶を使ったお菓子が登場します。伊勢茶のマカロンには粒あんとバターのクリームをはさみ、まろやかで厚みのある味に。イチゴやブルーベリーのフレッシュな味わいを、柔らかなかぶせ茶のジュレが引き立てます。和菓子は桜餅、5月からはわらび餅をご用意します。

セイボリーは地元食材を中心に、味の広がりを愉しめる品々。アコヤ貝の貝柱と鮑のフリッタータはイタリア風のオムレツ。アオサの佃煮と合わせ磯の香りで和のテイストを。伊勢海老のパートブリック包み焼きは、スイートチリソースの酸味、甘味、辛味がエスニックの表情。木々や花々も豊かに色づく春のひと時を多彩な味覚とともにお愉しみください。

春のアフタヌーンティー
3月1日(水)〜5月31日(水)
¥5,000 (3/31まで)
¥5,200 (4/1から)
11:30〜17:30 ※要予約(前日 17:30まで)

イチゴのミルフィーユ

2023年5月31日まで
¥2,300 (1日限定10食)
※入荷状況により販売を終了する場合があります。

カフェ&ワインバー「リアン」 ザ クラブ2F
11:30-21:00(L.O.20:30)
※現在営業時間を一部変更しています。
※ディナータイム(17:30~)の営業日はホームページにてご案内しています。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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