左から塚原和食総料理長、福森雅武さん、樋口総料理長、福森道歩さん、杉原シェフソムリエ

地元伊賀の土に向き合う土鍋づくり

志摩時間 2023年秋号より

伊賀市は三重県西部にある上野盆地に位置する「伊賀焼」の一大産地です。約300万年前まで琵琶湖があったとされる古琵琶湖層のため粘土質の地層を持ち、奈良時代より焼き物が作られてきた伊賀市丸柱(まるばしら)には今も30軒程の窯元があり、主に土鍋などの調理器具や食器などを生産しています。

なかでも圡楽窯は昔ながらの製法にこだわりながら、炊飯や鍋料理だけでなく、焼く、蒸すなどの調理にも使える多様な土鍋を作っています。

樋口総料理長、塚原和食総料理長、杉原シェフソムリエと窯元を訪ねると、地元伊賀の土に向き合う圡楽窯の土鍋づくりと自然を重んじる暮らしに触れることができました。

 

笹ヶ岳(ささがたけ)の麓にある圡楽窯は約3000㎡の敷地に、作業小屋が7棟、窯場などがあります。

案内してくれたのは圡楽窯8代目当主で陶芸家の福森道歩(みちほ)さん。「丸柱は薪となる赤松が豊富で、登り窯が作れる傾斜があるなど陶芸に必要な条件が揃っています。特に伊賀の土は土鍋の素材として最適と言えます」。

成形後の土鍋は有機物などを含んだ凹凸が見られる

伊賀の粘土は金属性の不純物が少なく、耐火度が高いそうです。そして粘土に含まれる有機物が焼成時に燃えて穴ができることで素地の中でたくさんの気孔が作られます。

圡楽窯では3人の職人が昔ながらの手挽きろくろで土鍋を作っています。

道歩さんはその理由を「気孔は熱をゆっくりと伝える役目を果たします。成形時、プレス機で強い圧力をかけると丸い空気の粒(気孔)が潰れてしまいます。なので手で優しく包み込むように粘土を引き上げ、丸い気孔を残すことで調理の際にじんわりと温まり、一度熱すれば冷めにくい土鍋となります。私たちが手挽きにこだわるのは、伊賀の土の特性を最大限活かすためです」と話します。

土鍋はろくろで挽き、成形したあと底の部分を削り、取っ手を付けて約1週間から10日かけて自然乾燥。

その後素焼き、釉薬掛け、本焼きを経て、黒く輝く土鍋が完成。

圡楽窯の代表的な土鍋

「黒色は釉薬(ゆうやく)に鉄の割合が多いためです。使い慣れてくるとフライパンのような調理法も可能になります」。他にも蒸し料理やゆっくりと火を通して旨味を引き出す煮込み料理にも向いているそうです。

道歩さんは「土鍋は器としても優秀です。例えば夏では氷を敷いてお造りなどの料理を盛り付けます。氷も溶けにくく、さらに器が土鍋ということでも驚かれます」。縄文土器から続く土鍋は、多様な使い方ができ、器としての美しさも持つとても優れた調理器具なのです。

囲炉裏のある客間で皆さんを迎えてくれたのは道歩さんのお父様で7代目の福森雅武(まさたけ)さん。土鍋を使った料理をいただきながらお話を伺いました。

「朝は約1時間半、山を歩いて花や山菜を摘み、焼き物に使う粘土を見つけると採って試してみます。良い粘土は重機では掘れない場所にあるんです」。室内には雅武さんがその日の朝に摘んだ花が飾られています。

食にも卓越した知識とこだわりを持つ雅武さんが、伊賀焼の土鍋の特徴が良く分かるからと伊賀牛のすき焼きを作ってくれました。

耐熱性もある伊賀の土で作った土鍋を炭で300度まで熱し、5㎜ほどにカットした牛肉を並べます。「土鍋は肉を焦がさず、素早く均一に熱を加えて水分も保つので固くなりにくい。食べたら驚きますよ」。

塚原和食総料理長が「普通の調理器具であれだけ高温で火を入れたら固くなります。肉の柔らかさに旨味もしっかり感じますね」と話すと、樋口総料理長は「優れた土で作る土鍋の成せる技ですね。創作のイメージはどのように生まれますか」と尋ねます。

調理道具としての伊賀焼の魅力を話す塚原和食総料理長

雅武さんは「私は器を作るとき、伊賀焼という形にこだわらないんです。もちろん土鍋や皿も作りますが、自然の食べ物をいただくとき、こういう皿で食べたいと思うものを作っています。茶器を作ることもありますね」。

蓮の葉をフタに見立てた茶碗蒸しは道歩さんの一品。

最後にお二人に丸柱の魅力を聞きました。雅武さんが「自然に恵まれていて生活に必要なものがすべてあります。山には薪もあれば冬はイノシシも美味しい。自然は人生の先生だと思っています。」と話すと道歩さんは「今ここにあるもの、生きているもの全てが私の作品づくりのお手本です。器の原点である葉などの自然の美しさや季節の移り変わりを感じながら、自分が良いと思えるものを信じて作っていきたいです」と話してくれました。

自然から学ぶ生き方は、力強くも美しい土鍋の表情にも表れているようでした。

海の幸の煮込みサフラン風味

圡楽窯の土鍋の力が、海の幸を優しく包み込むブイヤベースです。
土鍋は緩やかな温度上昇で肉が柔らかく仕上がる原理を応用し、生の車海老にじっくりと熱を加えていきます。そこに魚、伊勢海老も同様に土鍋に入れ、フュメ・ド・ポワソン(魚の出汁)、ハーブ、香味野菜、トマト、白ワインにサフランの香りをつけたスープで煮込みます。土鍋にハマグリ、季節の魚などを加え火を通すと、魚介の旨味が加わり奥深い味に。また高い蓋が鍋のなかでそれぞれの食材に蒸気で熱を伝え、豊かな香りとともに程良い食感も愉しめます。
素朴ながらも美しさを備えた土鍋に、車海老、伊勢海老、スープの赤色が温かみのある鍋料理。海の幸の持つ濃厚な味が調和し、土鍋のなかで完成する料理は、三重の魅力を発信する新しいひと品です。

9月から単品メニュー(お2人様より)としてご提供する予定です。
※入荷状況により提供期間が変わる場合があります。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

伊賀焼圡楽窯 熊野地鶏玉締め 伊賀牛すき焼き

熊野地鶏 土鍋炊きご飯

熊野地鶏の魅力を引き出す2品を、圡楽窯の土鍋でご用意します。
土鍋炊きご飯では熊野地鶏の力強い味を活かしました。熊野地鶏の骨と手羽にかつおぶし、昆布を加え出汁を取り、米、ほぐした手羽肉、野菜とともに火にかけます。炊き上がったご飯は、米一粒ひと粒にも濃厚な熊野地鶏の旨味。さらにひと口大に切り湯引きしたモモ肉を加え、蒸らす間に鶏肉に程良く火が入ると食べ応えのある主役級のひと品に。

熊野地鶏の玉締めはモモ肉を玉ねぎ、原木椎茸とともに土鍋で煮込み、仕上げに卵を加えます。温かさが続く土鍋でやさしい味わいを。
また、温度が徐々に上がる圡楽窯の土鍋の特性を活かし、伊賀肉のイチボとサーロインをすき焼き風に仕立てました。土鍋で均一に熱を加え、しっとりと仕上がった肉と原木椎茸、野菜を加え甘めの出汁で味付け。まろやかな風味をお愉しみください。

9月〜11月の「匠」でご提供する予定です。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。

秋になると漁が始まる伊勢海老や地元三重のきのこで、実りの季節を表現した秋の御食つ国会席。
伊勢海老は甘味が際立つ造りで季節の魚介とともに。焼物では原木椎茸などのきのこ類と合わせ香ばしさを加えます。
かつおの出汁に松茸と原木椎茸、秋に脂が乗る鱧を加えた風味豊かな土瓶蒸し。淡白な伊勢まだいは卵黄のコクが上品な味を引き出す黄身煮に。箸休めにはあおさ素麺に鰻の蒲焼きを合わせ、季節の名残をお愉しみください。

お好みの食材をお選びいただける料理一題は、伊勢海老にきのこの風味を重ねた小鍋をご用意。伊賀牛の焼物、蒸し鮑は天ぷらでご用意いたします。食事は伊勢海老と魚介のにぎり寿司、熊野地鶏の玉締め、松阪牛の温寿司からお選びください。
深まる秋の彩りを、和食の技と味覚でお届けします。

秋の御食つ国会席
9月1日(金)〜11月30日(木)
¥33,500

和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30)
ご昼食 11:30-13:30 (L.O.13:00/2日前20:00まで)
※現在営業時間を一部変更しています。※ランチは4名様より承ります。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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