手仕事の美学

志摩時間 2023年秋号より

世界遺産の熊野古道がある三重県熊野市は、熊野灘と山々が連なる紀伊山地に位置します。
豊かな自然に抱かれたこの地で育てられる「熊野地鶏」は三重県古来の天然記念物の軍鶏「八木戸」と伊勢赤どりから生まれたオスと、名古屋コーチンのメスが親となる「三元交配」という交配技術で生まれる地鶏です。三重県畜産研究所が昭和63年から10年間をかけて開発した地鶏は、三重ブランドにも認定されています。

樋口総料理長、塚原和食総料理長、栗野料理長が熊野地鶏の産地を訪れ販売や生産に携わる方々にお話を伺いました。そこには品質を追求するための努力とともに、日々愛情を持って熊野地鶏に接する温かな想いがありました。

広大な施設内に鶏舎は8棟

奈良県や和歌山県との県境に位置する山間の町、熊野市紀和町(きわちょう)に熊野地鶏を手掛ける「熊野市ふるさと振興公社」があります。ここでは熊野地鶏をはじめ、熊野産柑橘の「新姫(にいひめ)」など、特産品の生産、加工、販売を行っています。

熊野地鶏について語る倉本さん(右)と和田さん(左)

加工生産事業部長の倉本卓始さんと県内外の飲食施設への販売を担当する和田真太郎さんにお話を伺いました。

「地鶏と定義するための肥育期間は75日以上ですが熊野地鶏は110日〜120日。オス3.4㎏、メス3.1㎏と大きく育てることで味に深みが出ます」と倉本さん。

和田さんは、3種の品種を使った交配は地鶏では珍しく、それぞれの特徴が活かされ味の良い熊野地鶏になると説明してくれました。またエサには地元で穫れる米やミネラルを含む熊野古道の湧き水、新姫の乾燥粉末などを配合することで身の香りも良くなり、健康に育つそうです。

「軍鶏特有の弾力のある肉質、伊勢赤どりの上質な脂、名古屋コーチンの旨味やきめ細かな身が特徴です。実はオスとメスでも味の違いがあるんですよ」と和田さん。

塚原和食料理長は和食ならではの視点で地鶏の特徴を考察

塚原和食総料理長は「確かにオスは独特の歯ごたえがありますね。地鶏は火を入れすぎると固くなりますので肉質の良さを活かすには調理の技術も必要ですね」。

樋口総料理長は「力強い味わいを活かしたいので私はいつもオスを使わせていただいています」。
栗野料理長は「味の濃さに驚きました」と、皆さん地鶏の可能性に料理のイメージが膨らんでいる様子です。

熊野地鶏は全国からの注文も増えたことで生産数も伸び続け、昨年は約3万羽を出荷。生産を担当する農場長の濵口博和さんにお話を聞きました。

鶏舎の前で樋口総料理長と語る濵口さん

「通常、地鶏は1㎡あたり10羽ほどの鶏舎で育てますが、ここでは8羽と決めゆったりとした飼育密度で運動量を増やします。また鶏舎は成長に合わせて2つに区切るなど、伸び伸びと育つようにしています」。

鶏舎は3名の飼育員で毎日朝と夕に見回ります。ひとつの鶏舎を300羽〜400羽程度にすることで1羽ずつに目が届き、鶏の体調を常に確認できるそうです。

「昔ながらの飼育法で非効率的かも知れませんが、この方が鶏にとってもストレスが少ないんです」。特にヒナは繊細でちょっとした物音や足音にも怯え成長にも大きく影響するそうです。

メスよりひとまわり大きく育てる熊野地鶏のオス

「熊野地鶏は闘鶏である軍鶏の血が流れているので、オスのなかには気性の荒い子がいます。興奮させないように鶏舎には静かに入るんですよ」と笑います。

対してメスは好奇心が強く、飼育員に近寄り、次第に懐く子もいるそうです。食欲が落ちる夏には飼育員皆で相談しながらエサを調整し、冬でも温かな熊野に雪が降るほどの寒さがやってくると、皆さん泊まり込みで鶏の世話を行うそうです。
 

樋口総料理長は「恵まれた自然の中で、家族のように愛情を受け育てられる熊野地鶏。美味しさの秘訣は三元交配などの技術ももちろんですが、関わる方々の優しさだとわかりました」。

濵口さんは「飼育員はチームワークが大事。鶏が育つのに一番良い環境を整えるため、日々アイデアを出しながら、日本一美味しい地鶏への挑戦を続けていきます」。

豊かな自然と高みを目指す生産者の強い想いが、地域のブランド地鶏を輝かせています。

総料理長 樋口 宏江 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼を提供。

熊野地鶏の魅力をさまざまな形に

恵まれた自然環境で、愛情を持って育てられた熊野地鶏の様々な部位を使い、その魅力を表現しました。

運動量が多く肥育期間が長い熊野地鶏のオスのモモ肉は、低温のオイルでコンフィに。皮目はぱりっと、肉は噛みしめるほどに旨味と上質な脂が溢れます。またモモ肉のミンチに角切り肉を混ぜ、松阪産原木椎茸と合わせた伊勢志摩備長炭焼きは、香ばしさが加わりより地鶏の味わいを愉しめます。

ムネ肉のマリネは酒粕に漬けることで柔らかでしっとりとした質感を引き出しました。良質なエサで育った熊野地鶏は内臓も美味しく、レバーはパテに。伊勢ひじきと合わせて風味豊かに仕上げます。トーストしたバゲットに乗せてワインとご一緒に。砂肝と心臓もマリネの後、コンフィにすることで柔らかく濃厚な味に仕上げました。

品質を追求するため弛まぬ努力を続ける、生産者さんへの感謝を込めて。

9月〜11月の「デギュスタシオン」コースでご提供する予定です。※入荷状況によりご用意できない日がございます。
フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)
※現在営業時間を一部変更しています。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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