美里在来「嬉野大豆」

美里在来「嬉野大豆」

志摩時間 2022年春号より

畑や産直場を案内いただいた松井さん(右)と皆さん

松阪牛で有名な松阪市の平野部に位置する嬉野権現前町(うれしのごんげんまえちょう)は、米、麦、大豆、大根などの産地です。なかでも大豆は、隣接する津市美里町にあった在来種「美里在来」を三重大学や行政と連携し「嬉野大豆」として生産。難しい在来種を安定して生産することに成功し注目されています。「嬉野大豆」は一般的に流通している品種、フクユタカの約1.3倍の大きさで豆の豊かな食感も特徴のひとつ。
開発時から携わる、三重県松阪農林事務所の渡邉公夫(わたなべきみお)さんに権現前地域の土地の特徴について教えてもらいました。
 

三重県松阪農林事務所の渡邉さん(左)と樋口総料理長

「この土壌は1㍍下は砂利で水捌けがよく、大豆の生産に向いています。また近くの三重県畜産研究所から牛などの堆肥を譲り受け、土づくりをしているので、地力(ちりょく)が高いのも特徴ですね。また、ここで育った稲の藁は牛の餌として提供し地域内での耕畜連携にも活用されています」。昔は農家が農耕用の役牛を飼い、その堆肥を使い田んぼの畦(あぜ)で大豆を育てていました。美里在来も元々そのような畦豆の一種であり、今も権現前では昔ながらの方法で育てています。品種改良をしていない在来種の生産は難しく、三重大学と12年間もの共同研究を行い、美里在来種のなかでも生産に適した優良系統を選抜したものが「嬉野大豆」として生産されています。
 

嬉野大豆を生産する株式会社権現前営農組合は、担い手不足の地域の農業を継続させるため、地域の農家が出資して運営しています。平成28年には、農林水産省が主催する豊かなむらづくり全国表彰事業にて「幻の大豆が広げるむらづくり」が農林水産大臣賞を受賞。現在は4名の職員を中心に田や畑での生産に励んでいます。
 

社長の在間さん(中)と社員の久保さん(右)から嬉野大豆についてお話を聞く樋口総料理長

この日、嬉野大豆の収穫作業を行っていた社長、在間理(ざいまおさむ)さんと久保典広(のりひろ)さんに嬉野大豆の特徴を伺うと「旨味と甘味です」と胸を張り答えてくれました。
 

試食させていただいた大粒の嬉野大豆

蒸した嬉野大豆を試食した塚原和食総料理長は「想像以上に甘いです。粒が大きいので食感も良いですね」と驚きの表情。栗野料理長も「幻の大豆と言われるだけありますね」とじっくり味を確かめます。
嬉野大豆は10年程前まで、一反あたりの平均的な大豆収穫量の1.5倍〜2倍とれていましたが、近年は減っていると久保さん。「理由は気象条件の変化で、夏の気温上昇で土が酸化すると地力が下がります。また雨が多いと発育できない苗もあります」。
 

営農組合が運営する農作物直売所「旬前耕房ごん豆(ず)」では、嬉野大豆の豆腐や枝豆のペーストなどの大豆加工食品、地元農作物に力を入れています。

「旬前耕房ごん豆(ず)」では嬉野大豆を使ったお惣菜が地元の人にも人気で、商品の開発や販売に携わる管理栄養士の松井順子さんは「地元で採れた作物は、地元で消費することが理想です。新鮮で美味しいことに加えて、輸送燃料も抑えられる環境に優しい食の形だと考えています」。
大地に根付き豊かに実る地物の野菜には、力強い生命力を感じます。季節、場所、作り方など産地ならではの魅力。これらを料理に活かしていきたいと樋口総料理長は笑顔で話します。
 
総料理長 樋口 宏江 2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 2020年志摩観光ホテル鉄板焼き山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼きを提供。
取材日:2021年12月

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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