食の本質
品種の個性にこだわり、ブドウ本来の味を追求
志摩時間 2021年秋冬号より
今回は樋口総料理長、塚原和食総料理長が約22品種もの果樹を無農薬で育てる果樹部を訪ねました。季節で収穫される様々な果物を加工、製品化した愛農ジャムやシロップなどは地域の多くのファンに愛されています。〝いのちを育み、いのちをつなぐ。生きることは、食べること。食べることは、いのちをたいせつにつなぐこと〟 を掲げる愛農学園の近藤百(もも)先生に、生産者としての生き方、生徒達に伝えたい想いをお聞きします。
土地の気候や土壌を活かした作物を育てる。
愛農学園の総面積は7㌶。そのなかで果樹部は52㌃の畑で作物を育てています。日射しの強い8月下旬。愛農学園のブドウが収穫の時期を迎えていました。果樹部の生徒が朝6時から害虫の駆除や発育具合を確認、収穫などの作業を毎日行っています。
韓国から留学して果樹栽培を学ぶゴ・ウンセムさん
畑を案内してくれたのは今年のブドウ栽培を担当した生徒のゴ・ウンセムさん。有機栽培を学ぶために韓国から留学しており将来はブドウを中心とした多品種果樹農家を目指しているそうです。
学園で作られているのはバッファローやスチューベンといった品種で、濃厚な香りと酸味、甘味があり力強い味わいが特徴です。近藤先生は「品種が持つ力を味に出すためには、農薬を使わずこの土地の気候や土壌を活かした作物を育てることが大切」と話します。
ブドウを手渡された樋口総料理長は「酸味があることで力強い甘味を感じます。味も濃くて奥行きがありますね」。近藤先生は「良い物をつくり、値を決められるのが生産者の正しい姿だと思っています。適正な価格で販売することでさらに良い作物を育てるために多くの時間と手間をかけられる。それが持続型農業であり、消費者の食の満足にもつながります。これからの農業を支えていく生徒たちには心を込めて真剣に取り組むことが結果になるといつも話しています」。
生きることの本質が重要視される、これからの時代
学園では広大な敷地の使われていない土地を生徒さんが開墾し、畑を作ることもあるそうです。そこで育てる作物は、気候や土壌に合う品種を選ぶのも学びのひとつです。「どんな品種なら育つのか。答えは誰も知らないので、何度も繰り返すしかないです。うまくいった時は〝よく育ってくれた〟 と生徒たちと感謝しながら作物に接しています。経済やエネルギーだけに依存する暮らしでなく、もっと前提にある、食べ物をみんなで作ることを学びます。それは生きて行くための手段であり、暮らしの根底にある大切な部分です」。
食事は命をつなぐものでありながら、時には人生の大切な一瞬にもなるもの。農業が日々の暮らしになるために自然と向き合い、しっかりと生きる。そんな学園の生徒さん達の頼もしい姿が印象的です。
食材を育てる生産者と料理を届ける料理人。同じ価値観を持ち、つながりながら共生する姿がそこにはありました。
左より)樋口総料理長、愛農学園 近藤 百先生、塚原和食総料理長
総料理長 樋口 宏江 | 2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。 |
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和食総料理長 塚原 巨司 | 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 |
総料理長がお届けする季節のひと皿 樋口宏江の料理ストーリー
「大地の恵み」
三重で活躍する生産者の方々を想いながら仕上げたひと品です。
愛農学園のブドウは、酸味や甘味が強い力強さが魅力。ブドウそのままの瑞々しい香りの良さと、凝縮させたドライフルーツで味の違いを。豚肉は低温調理を施しました。学園で生徒さんが楽しそうにお世話をしている姿が印象的で、家族のように愛情を持って育てられているのを感じました。ストレスなく育つためかアクが少なく、柔らかな身質なので味付けは少量の塩だけ。肉の持つクリアな味を愉しんでいただけると思います。伊勢志摩ジビエ、南張のメロン、内瀬の柑橘など、それぞれの食材が持つ個性と作り手の想いを乗せたひと皿。三重の大地から生まれた食の恵みです。
フレンチレストラン「ラ・メール」 | ザ ベイスイート5F ランチ 11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ) ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30) |
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志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。