知恵が詰まったカツオの一本釣り漁

知恵が詰まったカツオの一本釣り漁

志摩時間 2020年秋号より

日本の食文化を支えるカツオは生食以外にも「かつお節」などに加工され、古来より朝廷にも献上されてきました。三重県はカツオの水揚げ量が全国3位になる年もあるほどの産地です。秋の味覚「戻りガツオ」は8月から10月にかけて産卵のため南下し、脂が乗り美味しさが増します。今年のカツオ漁は大漁と聞きホテルから車で約1時間40分(約75㌔)、三重県南部の東紀州地域にある紀北町紀伊長島へ向かいました。ここは黒潮が流れる熊野灘に面し、江戸時代から「船だんじり」という祭も行われるなど、漁業が盛んな港町です。長島港に着くとまるまるとしたカツオが次々と水揚げされ活気が溢れています。樋口総料理長、塚原和食総料理長、杉原シェフソムリエとカツオの一本釣り専門漁師、精漁丸船主の宮原精一さんを訪ねました。

カツオ漁について話す宮原さん

カツオ漁について話す宮原さん

漁港で水揚げを見学する樋口総料理長が「大きくて形も色も立派なカツオですね」と声をかけると「今日は5〜6キロの特大が多くて合計1.5㌧の水揚げ。大漁ですよ」と、宮原さんは水槽いっぱいに詰まったカツオを手際よく選別しながら嬉しそうに答えます。

一本ずつ測量をしてサイズ毎に仕分け

一本ずつ測量をしてサイズ毎に仕分け

紀伊長島などカツオが有名な地域のカツオ漁は1〜2週間程かける遠洋漁業と、宮原さんのようにその日の内に港に戻る近海漁業があります。近海漁業は朝4時に出航して約3時間かけ熊野灘の漁場へ。そこには浮魚礁(うきぎょしょう)が設置してあり、海底に繋がるロープには藻や貝などが自然と付着していきます。それらをエサにする小魚が集まり、小魚を目がけて回遊魚であるカツオも集まるという仕組みです。

カツオのエサとなる生きたイワシ

カツオのエサとなる生きたイワシ

そこからは漁師の腕と経験と宮原さんは続けます。「魚群探知機と目視でカツオの群れを発見したら、まず生きたイワシを撒きます。するとカツオが寄ってきます。船に搭載しているホースでイワシがいるところに勢い良く海水を放水すると、カツオはイワシの群れだと勘違いしてさらに集まります。そこで一気に釣り上げるのです」。カツオの動きを上手く利用した漁法で、一本釣りをするのは1時間程。船には4人が乗り込み一人が餌を蒔き、3人が返しのない釣り針で次々と釣り上げます。11時頃港に戻り水揚げをして漁は終了。昼過ぎに競りが行われ、夕方には食卓に並ぶ新鮮な近海漁のカツオは「日帰りカツオ」とも呼ばれ、県内や都市部にも出荷されています。

一本釣りのカツオを手に取り料理談議をする樋口総料理長、塚原和食総料理長、杉原シェフソムリエ

一本釣りのカツオを手に取り料理談議をする樋口総料理長、塚原和食総料理長、杉原シェフソムリエ

祖父の代からカツオ漁師という3代目の宮原さんに、おすすめのカツオの食べ方を聞きました。「やっぱり刺身が一番ですね。捕れたその日の刺身は塩だけ。次の日は醤油で食べます。脂が乗っていない時期は醤油とマヨネーズにニンニクを少し加えて食べるのも美味しいですよ」。塚原和食総料理長がカツオに欠かせない薬味について生姜、ネギの他にも柑橘や梅干しも合うと和食ならではの組み合わせを紹介すると、杉原シェフソムリエは「青草の香りがして渋みの少ない、さっぱりとした赤ワインと合わせたいですね」と新鮮なカツオを前に話題は尽きません。

また宮原さんは東紀州地域の郷土料理も教えてくれました。「カツオは三枚に卸すのが一般的ですが、小さなカツオを頭、内臓、エラを処理してまるごと一本焼き上げる『鰹の焼き』という料理は、骨ごと焼くので旨みが凝縮されて美味しいですよ」。塚原和食総料理長が「食材や食文化についてお聞きして、新しい視点が生まれました。地元の方ならではの食し方も興味深いですね。お客様にも喜んでいただけそうです」と話すと、宮原さんも笑顔に。
樋口総料理長はずっしりとしたカツオを手にしながら「近海物の一本釣りのカツオは、一尾ずつ丁寧に釣り上げられるので傷が付きにくく、身崩れもなくて見た目もきれいです。力強い味、もちもちとした食感など新鮮な地元のカツオならではの魅力を表現したいです」と話しました。

総料理長 樋口 宏江 1991年志摩観光ホテル入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。
和食総料理長 塚原 巨司 1986年博多都ホテル入社。和食「四季亭」、1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。
シェフソムリエ 杉原 正彦 1987年に現在のウェスティン都ホテル京都に入社。2011年全日本最優秀ソムリエコンクールセミファイナリスト。第10回フランスワイン&スピリッツソムリエ最優秀コンクールベスト10など数々のコンクールで入賞。伊勢志摩サミットでは、日本ワイン選考委員会のメンバーであり、サービス責任者も担当。
取材日:2020年7月

志摩観光ホテルの海の幸フランス料理には「火を通して新鮮」というコンセプトがあります。今回はフランス料理の繊細な火入れにより、近海物の新鮮なカツオの魅力を引き出すよう仕上げました。
脂が乗った身にオリーブオイルでマリネをしてから低温調理で時間を掛けて火に通すことで、カツオの旨味を閉じ込め身の水分が飛ぶのを防ぎ、カツオのもちっとした食感を引き出します。色鮮やかなパプリカソースのベースはカツオと相性が良いチキンブイヨン。さっぱりとしたカツオの身にチキンの上品なコクを加えることで旨味に相乗効果が生まれます。しょうが風味の泡をアクセントに香りと味の変化をお愉しみください。
旬の秋なすはカツオの風味を付けたチキンブイヨンで煮たものと、サッと火入れし、なす本来の味を活かした2種類をご用意しました。味覚の秋を描く華やかな一皿です。
「エレガンス」コースにてご用意いたします (9月)

料金 お一人様 ¥20,800 (¥25,168)
フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ランチ  11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

刺身やたたきなど冷たい状態で食されることが多いカツオを、今回はまるごと焼き上げる東紀州の郷土料理「鰹の焼き」をヒントにした料理です。脂の乗った戻りガツオは火を通してもしっとりと仕上がります。伊勢志摩備長炭を使い燻製に近い状態で熱を加えることで、カツオ本来の風味を引き立てました。南伊勢の海水で作る「真珠の塩」でシンプルにお召し上がりください。三重のきのこを添え季節を表現。日本酒とともにゆったりと味わっていただきたい一品です。
単品にてご用意いたします(9月〜11月)

※要予約(前日 18:00まで)

料金 ¥3,800(¥4,598)
和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご昼食 11:30-14:30 (13:00までのご入店/貸切のみ)
ご夕食 17:30-22:30 (L.O.20:30)

鰹の美味しさをランチでも。ポルト酒の風味で旨味を残した香り高い戻りガツオはすし酢を合わせたサフランライスとともに。茗荷やごまなど和風のエッセンスを加え、白ワインソースで味をまとめた繊細な味わい。伊勢海老ときのこのコンソメスープ、栗とフォアグラと合わせた松阪牛など季節の移ろいをお料理に乗せて。
セゾン ラ・メール (9月〜11月)にてご用意いたします。

時間 11:30〜14:30 (L.O.14:00)
料金 お一人様 ¥12,700 (¥15,367)
レストラン「ラ・メール ザ クラシック」 ザ クラシック1F
ランチ  11:30-14:30(L.O.14:00)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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