気候や風土に合わせた独自の品種改良

気候や風土に合わせた独自の品種改良

志摩時間 2020年秋号より

日本の稲作は縄文時代に中国から伝わり、弥生時代に日本中に広がりました。米の備蓄に使われていた高床式倉庫は、神社の建築様式のひとつである神明造(しんめいづくり)に発展したと考えられています。

神宮(伊勢神宮)では天照大神をはじめ両宮(外宮、内宮)のご祭神に御飯、御水、御塩などを奉る「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」が約1500年、毎日朝・夕の2度欠かすことなく行われています。毎年10月に行われる神嘗祭は神宮の多くの祭典の中でも重要とされ、米などの新穀を天照大神に捧げ、収穫に感謝をする、最も古く由緒ある祭です。また志摩市にある神宮内宮の別宮、伊雑宮(いざわのみや)では日本三大御田植祭が行われ、田楽に合わせて田植が行われるなど地域の暮らしに神事が根付いています。今回は両料理長と米の農家や研究者を訪ね、日本人の食の原点である「米」の魅力をお伝えします。
写真左から三重県庁松井さん、スズカトラクター太田さん、樋口総料理長、塚原和食総料理長

写真左から三重県庁松井さん、スズカトラクター太田さん、樋口総料理長、塚原和食総料理長

伊勢平野の中ほどにある鈴鹿市は鈴鹿山脈から流れる豊富な水で米が育てられています。三重県庁農林水産部の農業技師、松井 未来生さんと、米農家を営むスズカトラクターの太田 翔さんにお話を伺いました。

三重県の米の歴史について、松井さんに聞きました。「明治期の東京の市場では三重県の米農家が開発した『関取米(せきとりまい)』という米が寿司米として人気がありました。それは強風でも倒れにくく、多くの米が収穫できる質の良い米でした」。関取米は伊勢錦、竹成(たけなり)という品種とともに「伊勢の三穂」と呼ばれ、お伊勢参りで人の出入りが盛んだったこともあり、三重の3種の良質な米は参拝者の手によって全国に広がったそうです。

日本中の米を食している松井さん

日本中の米を食している松井さん

現代でも米の品種改良は行われており、平成24年には三重のブランド米「結びの神」が開発、商品化されました。開発に携わった松井さんは「日本各地で生産されるコシヒカリは、味が良いのが特徴。しかし、近年の温暖化により三重では米に濁りができ、割れやすく、品質が安定しないという課題が出てきました」。その中で稲の背が低く、暑い気候に強く粒が濁りにくい「結びの神」が開発されたことは、農家にとっても栽培や収穫の喜びに繋がっているそうです。
「結びの神」という名前は、食、地域社会、自然など、人との「繋がり」への想い、そして食卓を始めとした「お米」が取り持つ多くの人の輪が生まれるようにとの願いが込められているそうです。

米作りについて話す太田さん

米作りについて話す太田さん

米の品種にこだわる太田さんは県下最大の作付け面積、約25㌶の田んぼで「結びの神」を育て、他にも国産リゾット専用米など8種類の米を生産しています。「おにぎりやお弁当には冷めてももっちりして美味しい『結びの神』、炒飯には粘りが少ない『キヌヒカリ』など、我が家では料理に合わせて米を使い分け味の違いを愉しんでいます」と太田さん。

自社の工場で生産工程を説明する太田さん

自社の工場で生産工程を説明する太田さん

米の種類によって収穫時期が違い手間は掛かりますが、米離れが進む現代にそれぞれの人が好みの米の味を愉しんで欲しいという想いで太田さんは多品種栽培にこだわります。

炊きあがった「結びの神」

炊きあがった「結びの神」

田んぼを眺めながら三重の伝統工芸品でもある萬古焼きの土鍋で炊いた「結びの神」を試食。樋口総料理長は「粒が大きく食感やのどごしが良いです。ベタつきが少なく粘りがあり、どんな料理にも合いそう」。話を聞いて松井さんは「普段、お米だけを食べることはあまりないですよね。お米は、料理の味と相性が良いことが大事だと思います」。

塚原和食総料理長は「和食では、最初に米炊きと漬物で3年、といわれるくらい米をきちんと炊けるようになることが重要です。何よりおいしいご飯は料理全体の満足度を高めますよね」と話すと「田んぼを眺めてお米の美味しさを一口ずつ噛みしめると大地の恵みを感じます。お話を聞き、米の魅力や、背景にある歴史や作り手の想いも伝わりました。今度は私たちがお客様にも料理を通じてお伝えしていきたいですね」と、樋口総料理長は言葉を残しました。

総料理長 樋口 宏江 1991年志摩観光ホテル入社。2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」のシェフとなる。2014年に志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞に女性初、三重県初の受賞。
和食総料理長 塚原 巨司
1986年博多都ホテル入社。和食「四季亭」、1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。
取材日:2020年7月

神様に献上するお食事「神饌」をイメージした特別朝食です。神宮でお供えされる品目にもある鮑や真鯛、伊勢海老などの魚介、伊勢湾に面した答志島名産の海苔やひじきなどの海藻を丁寧に仕立てました。ご飯は三重のブランド米「結びの神」を。料理に寄り添い味わいを引き立たせます。自然の恵みに感謝し、健やかな気分でいただく朝ご飯は「御食つ国・志摩」が育んだ地の滋養が身体に染みわたる歓びのひと時です。
※「特別朝食付き宿泊プラン」でご用意しています。

和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご昼食 11:30-14:30 (13:00までのご入店/貸切のみ)
ご夕食 17:30-22:30 (L.O.20:30)

神宮で日々神様にお供えするお食事「神饌」。魚介、海藻、酒、果実や野菜など神饌に習った食材を一品ずつゆっくりと味わう清々しい朝の時間を。お米は神宮神田で発見された品種米「イセヒカリ」。同じく神宮に献上する熨斗鮑(のしあわび)の産地、鳥羽の国崎(くざき)に伝わる「海の七草」を加えたリゾットに仕立て、波切(なきり)のかつお節を添えた身体にやさしい味わいに。日々の自然の恵みに、尽きることのない感謝の想いを込めて。
※「特別朝食付き宿泊プラン」でご用意しています。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ランチ  11:30-14:30(13:00までのご入店/貸切のみ)
ディナー 17:30-22:30(L.O.20:30)

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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