連載特集「式年遷宮」
伊勢和紙
本連載特集「式年遷宮」では伊勢志摩の伝統や文化など、地域の魅力を様々な視点でお伝えします。
天照大御神の御神徳が国の隅々にまで行き渡るよう祈念された神宮の御神札(おふだ)「神宮大麻」の起源は、伊勢信仰を全国に広めた〝御師(おんし)〟が頒布した「御祓(おはらい)大麻」にあるとされています。
現在も皇室の弥栄、国家の安泰、そして各家庭の平安を祈り、神棚に祀られています。
その御神札の和紙を製造しているのは、伊勢市大世古(おおぜこ)にある大豐和紙工業(たいほうわしこうぎょう)株式会社。
明治32年に神都製紙(しんとせいし)株式会社として創立し、御神札の他にも神宮の御用紙を奉製しています。
今回、工場での製造過程を見せていただき、さらに現在の取り組みなどをお聞きしました。
職人の技が生きる、神都の和紙
大豐和紙工業があるのは、外宮の有力な旧御師「龍大夫(りゅうだゆう)家」の敷地跡。
到着すると、代表取締役の中北喜亮(なかぎた よしあき)さんが迎えてくれました。まずは伊勢和紙の作り方を教えてもらいます。
大豐和紙工業では和紙の原料である楮(コウゾ)や三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)などの木の皮の調達から行っています。
仕入れた原料は乾燥しているため、水に漬け込み水分を含ませ、大釜で煮出す煮熱(しゃじゅく)を行い繊維をほぐしやすくします。
煮熱で出た灰汁や垢などは水で何度も流し、残留している微細なゴミまで手作業で一つひとつ取り除きます。
「御神札などの紙は、わずかでも汚れが残っていれば不良品となり出荷できません。この作業は時間が掛かり大変ですが一番重要なんです」。
きれいに濾された原料は機械で繊維一本一本になるまでほぐし、続いて漉きの工程へ。
漉き舟と呼ばれる水槽に原料とトロロアオイの根でつくる糊を混ぜ、竹ひごを細かく編んだ簀(す)で一枚ずつ丁寧に漉いていきます。
大豐和紙工業では現在3名の和紙職人が製造を行っています。
職人歴25年のベテラン、中島鉄兵(なかじま てっぺい)さんは
「今漉いているのは雁皮です。和紙の材料となる木は人工栽培できるのですが、雁皮だけは天然物しかありません。となりで漉いているのは楮です。私たち職人の間では楮は『男』、三椏は『女』、そして雁皮は『女王』と呼ばれます。
雁皮は版画、書道、日本画などにも使われる最高級和紙で、漉きの技も特に難しいことから熟練の技が必要です」。
その後は圧搾機で水分を抜き、一枚ずつ乾燥させ伊勢和紙は完成します。
中北さんは「和紙作りは経験が必要で難しい作業です。失敗することもありますが、成功するための理由と前向きに捉えて技術を磨いています」。
新しい時代を見据えた、伝統産業の展開
一般公開されている伊勢和紙館では手軽に伊勢和紙が購入でき、ギャラリー開催時は伊勢和紙を使った写真家の個展も開催されています。
「御神札以外にも、写真用プリントの和紙も開発したことで海外の写真家からも注目されているんですよ」と中北さんは話します。
「近年はプリンターの性能が向上し、様々な紙に印刷できるようになりました。私たちは和紙にプリントした柔らかな表現や質感を〝心で見るような世界観〟とお伝えしています」。
また和紙には、コピー用紙や書籍など一般的に使われている洋紙にはない魅力もあるといいます。
「洋紙は手でちぎるとすぐに裂けますが和紙はなかなか切れません。その理由は洋紙は細かく刻んだパルプが原料、和紙は木の皮の長い繊維をそのまま生かして紙にしているためです。
飛鳥時代に中国から伝わり独自の技術発展をした和紙は丈夫で保存性が高く、奈良時代に建立された正倉院には当時の和紙が今も現存、保管されています。」
そして、和紙を知りつくす中北さんの視点ならではの言葉も。
「現代はデジタルデータの時代です。でも保存性だけを考えると和紙は最強のメディアだと思いませんか」。
長年作り、使われ続ける和紙に広がる大きな可能性。
最後に、伊勢和紙の今後の展望を伺いました。
「私が入社した10年前は、三重には和紙の原料がほとんどありませんでした。
今は三重県の山間部にある使われなくなった山林や耕作放棄地を活用し、地元の方々に協力をいただきながら三椏の生産に取り組んでいます。実は獣害を及ぼす鹿は三椏の臭いをを嫌うそうです。この特徴を活かし山と里の間で栽培すれば田や畑の被害が減るのではないかとも考えています。」
「地域内に良い循環が生まれ、地元の原料で神様に御供えする御神札などの生産を増やしていきたいですね」
と、未来を描きながら伝統の継承への想いを話してくれました。
志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。