伊賀市大山田(おおやまだ)地区は、鈴鹿山脈や布引山地に囲まれた伊賀盆地の南西部に広がる里山集落です。

寒暖差の大きい盆地特有の気候を活かし、古くから米や大豆、菜種の生産が行われてきました。しかし近年では高齢化などの影響で農家が減少するなど、地方の農産地が抱える課題にも直面しています。

左から樋口総料理長、亀井さん、塚原和食総料理長

そこで14年前に、遊休農地などを活用して菜の花を栽培し、美しい農村風景を創り出すとともに、その菜種を搾り、地域の特産品として地産地消に取り組む「伊賀市菜の花プロジェクト」が発足。
一般社団法人「大山田農林業公社(以下公社)」が運営管理を行い、7つの取り組みから名付けた独自ブランド『〝七〟の花菜種油』の生産・販売を進めています。

樋口総料理長、塚原和食総料理長と菜の花が咲く生産現場へと伺いました。
そこには時代の流れに合わせながら地域と農村の再生に取り組む人々の姿がありました。

大山田に到着すると菜の花が周囲を鮮やかに染める、里山の原風景が広がります。

公社で「菜の花プロジェクト」を担当するチーフ、亀井健司(かめい けんじ)さんは12年前に入社し、3名の従業員とともに菜種の栽培、搾油、商品化まで手掛けているそうです。

工場での製造過程を見せていただきました。

菜種油の原料である種子

構内には黒々とした大量の菜種が積まれています。

「30軒程の地元農家の方々が、菜種栽培に協力してくれています。採れた菜種は公社に持参してもらい、菜種油としてお返ししています。地域の方の輪も広がり、美しい風景づくりと菜種油の製造が成り立っています」。

乾燥機で乾かした菜種は搾油の工程へ。

「昔ながらの圧搾機を使っているので搾れる量は少ないのですが、菜種本来の豊かな風味があります。ここでは2種類の搾油法を行っています。

加熱をしない生搾りの油から、上澄みだけを和紙を使って自然ろ過させるエクストラバージン菜種油は、フレッシュな香りと軽やかなコクが特徴です。他の商品は菜種を焙煎し、香ばしさを加え、機械で圧力をかけてろ過まで行っています」。

一滴ずつ抽出するエクストラバージンオイル

樋口総料理長は「七の花エクストラバージンはパンにもよく合います。オリーブオイルに比べてさらに軽やかな印象です」。

「焙煎した七の花の菜種油は天ぷらに使うと食感が軽く、雑味も少ない仕上がです。季節の食材が引き立ちます」。と塚原和食総料理長も続けます。

亀井さんは「食後に香りが残りにくい大蒜、風味が強い唐辛子などを加えた商品もあるので、ぜひ使ってみてください」と料理談議が弾みます。

収穫前の菜の花畑で亀井さんとお話をする樋口総料理長

続いて満開の菜の花畑に移動。菜種の栽培方法についても教えてもらいました。

菜種栽培は米を収穫した後の田んぼを使うことが多く、9月から10月に種を蒔き、追肥を行って翌年の6月から7月に収穫するそうです。

七の花エクストラバージンオイルと七の花菜種油

「昔からこの地区では菜種ができると油屋さんに持っていき、燃料や食用として使っていたそうです。現在は農家さんの高齢化もあり、耕作放棄地が増えています」。

「田んぼは3年も放置すると木が生え農地として使えなくなりますから、なるべく早く活用することもプロジェクトの目標のひとつです。しかし公社だけの力では実現できないため農家さんに協力していただきながら生産に取り組んでいるんです」。

左:種子の油粕、右:菜種の種子

公社では地域に継承されてきた農作地を守っていくことと同時に、循環型農業にも取り組んでいるそうです。

「製造過程で出る搾りかすは畑の肥料や家畜の飼料に。使い終わった廃油は回収して農機具のバイオディーゼル燃料として活用しています」。

さらにこのプロジェクトには予想していなかった嬉しい効果もあったと話す亀井さん。

「この地域の一面に花が咲く風景を見るために訪れる観光客が増えているんです。さらに撮影された写真が拡散されることでプロジェクトを応援してくれる方も増えました」。

樋口総料理長は「昔ながらの農村の原風景を残す取り組みと、環境に配慮した循環型農業を地域全体で進めていることが素晴らしいですね。
国産の菜種油のシェアはとても少ないと聞いていますので、三重県で生産されていることも嬉しいです。この素敵な農村の風景とともに、菜種油のストーリーをさらに多くの方々に知っていただきたいです」。

総料理長 樋口 宏江 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。
2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。
2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。
2024年料理マスターズシルバー賞、文化庁長官表彰を受賞。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。
2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。
2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。
2025年、日本調理師連合会最高位名匠を受嘱。

鹿肉と猪肉の低温調理
エキストラバージン菜種油のビネグレット

菜の花畑の向こうには伊賀の山々で生きる動物たち。鹿と猪の肉はマリネをして低温調理を施します。
手前のなばなやアスパラ菜は軽く茹で、たまごの黄身とミモレッドチーズを合わせたパウダーを散らし、満開の菜の花畑をイメージ。
ドレッシングには、七の花エクストラバージンオイルを使います。
丁寧に一滴ずつ精製されることで生まれるさらっとした質感、軽やかな口当たり、ほのかに感じる菜種の香りにレモン、塩、粒マスタードを合わせ軽やかに仕上げます。一つひとつの大地の恵みで里山を描きました。

春野菜の天ぷら
蓮根土鍋炊きご飯

軽やかさが特徴の菜種油で春野菜の繊細な味わいを引き出した天ぷらは、ほのかな菜種の香り。
菜の花、たらの芽、ふきのとうの程良い苦味、タケノコの食感、新玉ねぎの瑞々しい甘味から春の訪れを感じます。
根菜の甘味と香りが米の味を引き立てます。さくっとした天ぷらと、土鍋ご飯の刻んだレンコンのもっちりとした食感。
山に芽吹く山菜、里に根を張るレンコンで山里の春を表現しました。

春の御食つ国会席

季節の味覚と三重が誇る食材を散りばめ、和食の技で芽吹きの頃を表現した春の御食つ国会席。
春に美味しくなる平貝など三種の貝類は、造りや握り寿司で瑞々しい旨味を堪能。
伊勢海老や初ガツオも揃えました。蒸し鮑と伊勢まぐろ、伊勢海老の焼き霜、伊賀牛の冷菜とそれぞれの持ち味を引き出した料理一題はお好みでお選びいただけます。
答志島さわらの梅だれ焼き、松阪豚身巻き焼き、熊野地鶏炙り焼、佐藤さんのニンジンやYosi Farm 伊藤さんのレンコンなど多彩な味を重ねます。
握り寿司、伊勢海老と真珠貝柱のかき揚げ、魚貝のちらし寿司もご用意。海藻を練り込んだ風味豊かな素麺、若竹の吸物の優しい香り、春野菜の天ぷらなど季節の滋味をふんだんにお届けします。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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