息吹く伝統

志摩時間 2024年冬号より
 

伊勢神宮の外宮と内宮を結ぶ御木本(みきもと)道路は真珠王、御木本幸吉(こうきち)が資金を提供し作られた約3.1㎞の道路です。

その道沿いにある勢田町(せいた)、藤里町(ふじさと)、旭町(あさひ)、前山町(まえやま)、桜木町(さくらぎ)、岡本地区(おかもと)では、古くから「蓮台寺柿(れんだいじ)」が生産されています。

「蓮台寺柿」という名前は、かつて神宮祭主、大中臣永頼(おおなかとみ ながより)が991年から994年に建立した蓮台寺(明治2年廃寺)があった地域で栽培されていたことが由来と言われています。

その味わいは明治時代に刊行された書物「神都名勝誌(しんとめいしょうし)」に「その果実の圓く且大ふして味の甘美なること、他国に比類なかるべし」と記されており、とても美味であったことが伺えます。

蓮台寺柿は不完全甘柿に属し、現在も品種改良を行わない在来種です。伊勢市の天然記念物であり、三重県の美し国「みえの伝統果実」にも選定されています。

樋口総料理長、塚原和食総料理長、栗野料理長と蓮台寺柿の生産現場や、蓮台寺柿の生産農家、伊勢市役所、JA伊勢、三重大学などが連携し、立上げの準備を進めている協議会を訪ね、生産に関わる方々にお話を伺いました。

そこには蓮台寺柿の味を守る献身的な農家と、地域の誇りとして農家を支えたいと取り組む人々の姿がありました。

大西さんが管理をする35アールの柿園

市内の主要道路でもある御木本道路から中へ入ると、住宅街に面した35アールの柿園が広がります。収穫が始まった9月後半、木にはたわわに実る蓮台寺柿。

柿の栽培について大西さんと話す樋口総料理長

ここで柿を育てるJA伊勢蓮台寺柿部会長で柿農家歴約30年の大西信孝(のぶたか)さんは
「品種改良をしていない蓮台寺柿は害虫に弱く、少しでも虫食いがあると出荷できません。発育が天候に大きく左右されるので育てるのが難しい柿です」と話します。

大西さんに蓮台寺柿の育て方を教えてもらいました。

剪定した枝から生える新芽は約2年で柿の実を付ける

1月から専用の肥料で土作りを行い、芽吹く前に枝を剪定します。「柿は樹齢300年でも実を付けるほど生命力が強い木です。
剪定することで実に栄養を集め、枝の広がり過ぎも抑えることで、収穫の効率化を行っています」。

実が付き始めた5月には約7割の実を摘果し、残りの柿に養分を集中させます。
大西さんが所有する4つの柿園にある約500本の木はご夫婦だけで管理しているそうです。「柿は光合成で糖度が上がるので、枝の剪定や摘果は実に日光が当たるように行います。また雨が降らない時期には1本の木に約100ℓの水やりが必要で大変な作業も多いです」。

夏には草刈りや防虫作業と畑仕事の日々は続きます。そして9月後半に収穫を迎え、11月上旬まで続きます。
柔らかな実に傷をつけないよう、丁寧にひとつずつ手摘みで収穫、1日掛けて炭酸ガスで渋抜きをして出荷しています。

現在、JA伊勢蓮台寺柿部会の農家さんは38名。大西さんは年間10トンを、部会全体では120トンを出荷しています。
生産量が限られている蓮台寺柿はそのほとんどが伊勢志摩や東紀州などの三重県内で消費されており、スーパーなどに並ぶとすぐに売り切れるほど地元で愛される人気の果実です。

果肉の密度が高く受精をさせずに育てるので種がない蓮台寺柿

2日前に収穫して渋抜きを行った蓮台寺柿を大西さんが畑で剥いてくれました。

樋口総料理長は「水っぽさがなくねっとりとした食感が美味しいですね。ホテルでもこの時期には朝食で蓮台寺柿をご用意しています。早い出荷の柿は皮に青みがありますが、中はきれいな色で甘さもしっかりあるのが魅力です」。

塚原和食総料理長は「熟した蓮台寺柿はとろけるような柔らかさと甘味があるので温かい料理にするのも良いですね」。

鉄板焼の栗野料理長は「熟した柿を冷凍するとさらに柔らかくジャムのような食感になります。上品な甘味は酸味のある白ワインのソースと合うと思います」と、それぞれ料理の構想が巡っているようです。

伊勢市では加工品の開発や対外的なPRなどで蓮台寺柿の高付加価値化を目指し、県外への販路開拓も行うための協議会の準備を進めています。

伊勢市学芸員の北畠さんは文献から蓮台寺柿の歴史を紐解き、価値の向上に役立てたいと話します。
また伊勢市農林水産課の西村さんは「長年生産を続けてきた農家さんの努力を市もサポートしていきたいです」と熱い想いを伝えてくれました。

伊勢市では加工品の開発や対外的なPRなどで蓮台寺柿の高付加価値化を目指し、県外への販路開拓も行うための協議会の準備を進めています。

伊勢市学芸員の北畠さんは文献から蓮台寺柿の歴史を紐解き、価値の向上に役立てたいと話します。

また伊勢市農林水産課の西村さんは「長年生産を続けてきた農家さんの努力を市もサポートしていきたいです」と熱い想いを伝えてくれました。

神都名勝誌などの資料で蓮台寺柿を学ぶ皆さん。右から伊勢市農林水産課の西村さん、大西さん、文化政策課学芸員の北畠さん

大西さんは「地元の蓮台寺柿が多くの方に『美味しい』と評価いただけるのは嬉しいことです」と朗らかな笑顔に。

樋口総料理長は「労力と努力を惜しまずに生産されている姿に感謝の気持ちが溢れます。歴史が深い伊勢の地で受け継がれてきた蓮台寺柿。その魅力を余すことなく、活かしたいですね」。

総料理長 樋口 宏江 2014年志摩観光ホテル総料理長に就任、2016年伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。2017年に農林水産省料理人顕彰制度、料理マスターズブロンズ賞。2023年フランス農事功労章シュヴァリエ受章。
和食総料理長 塚原 巨司 1987年都ホテル大阪(現シェラトン都ホテル大阪)日本料理「都」、「うえまち」で研鑽を積む。2016年伊勢志摩サミットにて和食料理の提供に携わる。2019年、志摩観光ホテル和食総料理長に就任。 
リアン・山吹 料理長 栗野 正也 2020年志摩観光ホテル鉄板焼山吹料理長となる。多くの現場経験を活かし、カウンターでの会話と臨場感を愉しめる鉄板焼を提供。

柿とじゃがいものクリームスープ

柿園を見せていただき、生産者さんのお話を聞くことで、蓮台寺柿の魅力と多くの方々の想いを知ることができました。

品種改良を行わず育てられてきた歴史ある蓮台寺柿。そのピュアな甘さは唯一無二だと感じます。収穫する時期により食感が変わる特徴を料理に取り入れて完成したのが、蓮台寺柿のスープです。
チキンブイヨンをベースに柿とじゃがいもをクリーミーなスープに。柿そのものの食感も活かし、塩味のある生ハムとともにアクセントに加えました。
ソースにはバルサミコ酢やレモンの酸味で、柿の優しい甘味を引き出します。生産現場で改めて蓮台寺柿の素晴らしさと、食材としての可能性を感じました。

お客様にお届けするのは次の収穫を待たなくてはいけませんが、来年はどのような料理を作ろうかと、すでに胸が躍ります。その土地にある、その時だけの味覚にこれからも出会いたいと願う取材でした。

2025年秋の収穫後、ご提供する予定です。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。

フレンチレストラン「ラ・メール」 ザ ベイスイート5F
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30)

蓮台寺柿 柚子味噌焼き

程良く熟した蓮台寺柿の甘味と食感を、海の幸と合わせた温かな柿料理です。

平たく独特な蓮台寺柿の形を活かしたいと思い、実を取り出して器にしました。熟した実は賽の目に切り、なめらかな口当たりと食感を残します。
白味噌に卵黄などを練り込んだ玉味噌に、柚子の皮を加え、爽やかな風味の柚子味噌を作ります。そこにクリームチーズを加えたまろやかな和風のソースをベースに、伊勢海老やサザエ、志摩の特産物である檜扇貝(ひおうぎがい)、そして柿の実を合わせたら柿の器に戻し入れ、オーブンで焼き上げます。

熱を加えることで甘味が増す蓮台寺柿と、柚子味噌、チーズが調和したクリーミーなソースが伊勢海老やサザエ、濃厚な檜扇貝の旨味を包み込みます。

和食の技を活かしたひと品。蓮台寺柿の魅力を料理でもお愉しみください。

2025年秋の収穫後、ご提供する予定です。
※入荷状況によりご用意できない日がございます。

和食「浜木綿」 ザ ベイスイート4F
ご夕食 17:30-21:00 (L.O.19:30)
ご昼食 11:30-13:30 (L.O.13:00)
※ご昼食は4名様から。1週間前までのご予約制。

伊勢海老と蓮台寺柿 柿と柚子のソース

在来種ならではの自然な甘味を持つ蓮台寺柿の特徴を活かした料理を考案しました。

食べ頃が短い完熟した蓮台寺柿の実は丸く抜き、冷凍します。凍らせることで繊維が解け、さらに柔らかくなった柿を鉄板の上で凍った状態から熱を加えると、甘味が増しジュレ状になります。鈴鹿産米にチーズとブイヨンを加えたリゾットを香ばしく焼き、その上にクリームチーズ、柿のジュレ、伊勢海老を重ね彩りも美しく。

刻んだ柿を加えたソースは柚子の酸味と白ワインで仕上げ、柿の甘味を引き立たせました。リゾットからは米の旨味、伊勢海老の上品な甘味と食感、なめらかな口溶けのクリームチーズ、蓮台寺柿の優しい甘味が調和した華やかでエレガントなひと品です。

※入荷状況によりご用意できない日がございます。
 

鉄板焼レストラン「山吹」 ザ クラブ2F(要予約)
ランチ(土日限定) 11:30-13:30(L.O.13:00)
ディナー 17:30-21:00(L.O.19:30/前日 20:00まで)
※水曜日定休(1月1日は営業)。
※ランチは4名様から。1週間前までのご予約制。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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