伊勢春慶デザイン工房で制作や保存されている伊勢春慶の一部

暮らしのなかにあった美しさを現代へ。

志摩時間 2023年春号より

飛騨春慶や能代春慶の名で知られる春慶塗りは江戸から戦前まで全国で日用品として使われていた漆器で、各地で生産される木材を使用しています。
三重県指定伝統工芸品「伊勢春慶」は檜の美しい木目と風格、輪島塗や日光東照宮の復元でも使われている弁柄(べんがら)で着色した朱色がかった上品な色合いが特徴。「宇治山田市(現伊勢市)史」によると発祥は室町時代で、伊勢神宮の工匠が御遷宮の残材で作ったと記されています。

伊勢春慶の生産が主に行われていた伊勢市河崎には伊勢湾に続く勢田川があります。
伊勢の中心部に近いことから河崎地区は水運が盛んで、江戸から明治に大流行した〝お伊勢参り〟の参拝者に提供するための米や酒、雑貨などの問屋が軒を連ねていました。同時に伊勢春慶も愛知県や関西を中心に全国へと広まった歴史を持ちます。しかし戦後の漆不足やプラスチック製品の登場により春慶の器は衰退し一度は消滅してしまいます。その後、伊勢の地場産業として再興を目指すため平成16年、産官による「伊勢春慶の会」が立ち上がりました。

今では「伊勢春慶デザイン工房」が現代の日常使いにフィットした春慶の器を展開し約30アイテムを生産しています。
 

収納前の春慶

収納後の春慶と塗師の神戸さん

美しい木目と鏡面の伊勢春慶

古民家の町屋を改装した伊勢春慶を制作する工房には9名の塗師が在籍しています。「シンプルな物ほど塗りの技術が必要です」と話すのはベテラン塗師の神戸(かんべ)さん。

「用の美」と喩えられる春慶は飾り気がなく丈夫なことが特徴。
鏡面のような美しさに仕上げるため9つの工程があり約4ヶ月を掛けてやっと完成します。木地師と呼ばれる職人が制作した塗りを施す前の木地を仕入れて磨き、表面を滑らかにしたら弁柄で着色。次に防水効果のある柿渋を塗り、乾燥させたら1度目の漆を塗ります。
 

上塗りの様子

焼き印を押し、さらに漆を塗布。塗りの工程では塗材を拭き取りながら塗り重ねることで木目は透き通り、高い強度も実現しています。漆室でよく乾かしたら上塗りを施し完成。
 

孔雀の羽根でできた道具で不純物を取り出す
 

塗師の林さん

作業を行っていた塗師の林(はやし)さんは「上塗りでは微細な不純物も見逃さずに取り除きます。この作業は大変ですがとても重要。失敗したらやり直しです。根気のいる仕事ですよ」と語ります。

春慶は当時家庭での祭事でも使われていたため多くの器が必要でした。そこで入れ子状にすることでコンパクトに収納でき、輸送にも便利なよう工夫されています。
 

昔の製造元の屋号が記載されている春慶

また塗料が剥がれたときには塗り直しを依頼できるため、制作した屋号の焼き印が押されているなど、物を大切にする先人の知恵が詰まっています。

工房では当時の伊勢春慶も展示し、見学会などを通じて漆器とともに器を大切に使い続ける考え方を残す取り組みを続けています。
 

伊勢まぐろと、これから旨味を増す貝を味わっていただく春の御食つ国会席です。
焼き物の伊勢まぐろは脂の乗った腹に一番近く、赤身とのバランスが良い背トロを使います。まぐろの旨味に脂の溶ける食感が生とは違う味わい。造りにはトロ、酢の物には湯引きした赤身を使い、部位で異なる美味しさを活かしました。

日本料理では春の食材に欠かせない貝類。
造りではしっかりとした歯ごたえと甘味のある平貝の貝柱に赤貝、鳥貝、鮑など季節の貝は温めた酒にさっと潜らせ酒炒りにし、磯の香りを残しつつ旨味を閉じ込めました。

G7伊勢志摩サミットでのワーキング・ランチにも使用した三重県指定伝統工芸品「伊勢春慶」。季節の前菜を美しい木目の器に彩り良く盛り込めば華やいだ雰囲気に。
お料理で春の訪れを祝い、季節が巡る喜びを感じてください。

春の御食つ国会席
3月1日(水)〜5月31日(水)
¥32,200 (3/31まで)
¥33,500 (4/1から)
 

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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