ホテルと文学
伊勢志摩を愛した作家たち
志摩時間 2019年秋号より
英虞湾の入江に浮かぶ真珠筏と漁船の後に続く波紋を、夕陽が映し出す光景が特別なディナーの始まりを演出する秋のレストラン「ラ・メール ザ クラシック」。ザ クラシックは日本建築界の偉才、村野 藤吾氏が英虞湾を美しく眺められるようホテルを設計したと言われています。
「陽が傾き、潮が満ちはじめると、志摩半島の英虞湾に華麗な黄昏が訪れる」。
これは作家山崎 豊子氏の『華麗なる一族』の冒頭文。幾度となくホテルを利用した山崎氏はホテルの社内報に『わが作品のふるさと』と題して特別寄稿し、ホテルでの執筆のエピソードを次の様に綴っています。「当時の人事課長に、日没時間を調べて戴き、その時刻、あらゆる場所から夕陽を見た。或る時は、水平線に夕陽が落ちる一瞬を捉えたく、ホテルの半地下の汽罐室(きかんしつ)の窓からも、何時間も、何日も、沈み行く夕陽を眺めた。(中略)この数行を書き上げた時の喜びは、今もって忘れられない。華やかに天を染め、燃えながら沈んで行く夕陽のすがたは『華麗なる一族』の象徴であり、作品の産声をそこに聞くことが出来たのだった」。
特別寄稿文には処女作『暖簾』や直木賞受賞作『花のれん』などの書き出しもホテルの一室であったと記載があります。
また、山崎氏が新聞社に勤めていたときの上司で記事の書き方を教えたとされる井上 靖氏もホテルを舞台にした小説を書いています。小説『傾ける海』は当時のホテル(現・ザ クラブ)にて複雑な背景を持つ宿泊者同士に伊勢湾台風が襲いかかるも、不運を福に変えていく物語です。
ホテルから約50分、鳥羽市の離島神島を舞台にした『潮騒』の作者で、戦後の日本文学界を代表する作家三島 由紀夫氏なども宿泊するなど、志摩観光ホテルは多くの作家に親しまれています。
美しい夕陽やリアス海岸の自然に抱かれたホテルには、作家のインスピレーションを掻き立て、豊かな創造性を発揮できる場所と時間が流れています。
英虞湾の絶景を望むリーディングルーム。
幅 允孝
有限会社BACH(バッハ)代表 ブックディレクター
人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーを制作。視覚障害者用の選書をした「神戸市立神戸アイセンター」や「JAPAN HOUSE LONDON」、近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手掛け、JFLのサッカーチーム「奈良クラブ」のクリエイティブディレクターも務めている。早稲田大学文化構想学部、愛知県立芸術大学デザイン学部非常勤講師。
場所 | ゲストラウンジ〈ザ クラシック2F〉 リーディングルーム リスニングルーム |
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時間 | 7:00-22:00 |
- ご宿泊のお客様限定。
志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。