自然のいただきものに込める想い。

自然のいただきものに込める想い。

志摩時間 2019年秋号より

山に降った雨は里から海に流れる過程で、様々な命を育みます。養分豊富な山の水はプランクトンや海藻を育て、それをエサとする魚介類の生態系が作られます。良い海と良い山。その循環の間で暮らす人々がいます。山と海の距離が近く温暖な気候の伊勢志摩には、海だけではない山や里の恵みもあります。鹿や猪など最上級のジビエの肉質を追求する猟師や耕作放棄地に立ち上がった小麦農家の青年など、自然とともに生きる人々と山里の魅力をお伝えします。

伊勢志摩の山

伊勢志摩の山

およそ6万ヘクタールの広大な面積を占める伊勢志摩国立公園。その山で猟を行い「伊勢志摩ジビエ」の販売も手がける(株)バンビ商会(伊勢市)代表取締役の村瀬 滋(むらせ しげる)さんを樋口 宏江総料理長と訪れました。

地図

食肉処理業の許可と調理師免許を持つ猟師である村瀬さんは伊勢志摩の鹿や猪について「伊勢志摩の山には野生の鹿や猪がたくさんいます。神宮の内宮から南の山は杉や檜でなくウバメガシなどの常緑樹の雑木林です。若葉やドングリなど鹿の餌が豊富にあり、雪も少なく暖かい気候のためストレスなく育つのです」と話します。村瀬さんの狩猟方法は檻を仕掛ける檻猟で、知り合いの猟師とも協力し、獲物が掛かったと聞けば現場に出向き、生きた状態の鹿や猪を確認して価格交渉へ。交渉が成立したら獲物をその場で仕留め肉の傷みが進まないように特注した冷蔵車に乗せて自社の処理加工施設に運ぶ徹底ぶり。

伊勢志摩ジビエについて語る村瀬さんと樋口総料理長

伊勢志摩ジビエについて語る村瀬さんと樋口総料理長

「肉質を良い状態で保つため、鮮度には特に気を使っています」と話す村瀬さんの食材へのこだわりは精肉加工にも。持ち帰った鹿は手際よく処理した後、冷蔵庫で2日ほど水分を飛ばし旨みを引き出します。「約20年、肉を扱ってきて水分量が肉質に大きく影響していることがわかったんです。それが臭みの元になっていると私は考えています。水分を飛ばせば冷凍後解凍しても水っぽくならないのです」。

村瀬さんが作った鹿のあばらの燻製肉

村瀬さんが作った鹿のあばらの燻製肉

村瀬さんは保健所認可の処理加工施設を持ち、徹底した衛生管理の中で作業を行います。刃の長さや柄の握りやすさを自分で加工し、部位や骨の形に合わせて様々な刃物を使い分けます。

「以前村瀬さんからホテルに半頭割りの鹿肉を届けていただきました。さばくことで肉や骨がどのように構成されているのか、若い料理人にも勉強になっています」と樋口総料理長。実は村瀬さんは東京や海外でも長年フランス料理を食べ歩いてきた美食家で「フランス料理を食べることと同じくらい作ることにも魅了されてきました」と話します。

多くの刃物を使い分ける

多くの刃物を使い分ける

料理にもこだわる村瀬さんが作った「鹿のあばらの燻製肉」は燻香の中にスパイスの香りを感じる滋味深く力強い味わい。「私も料理をするのでさばいたら終わりではなく、料理人の方が扱いやすく美味しく仕上げてもらえることにこだわっています」。そしてこんな想いも語ってくれました。「ここでは若い鹿や猪を中心に扱っています。命をいただくわけですから最上級の肉質にこだわり、限りなく美味しく食べてもらえるよう努力を惜しまないことが一番の供養だと思うのです」。

村瀬さんの命への想いが鹿肉を最高の状態に処理する

村瀬さんの命への想いが鹿肉を最高の状態に処理する

話を聞いた樋口総料理長は「村瀬さんの命への想いが鹿肉を最高の状態に処理してもらえることに繋がっています。そんな全く臭みのない新鮮な鹿肉をお客様にもっと知って欲しい。お召し上がりになった多くのお客様から『柔らかくて美味しい』と評価をいただいているんですよ」と続けました。

「現在、私が扱う肉を卸しているのは志摩観光ホテルだけなんです。樋口さんは鹿の肉はもちろん、骨やすじ肉など美味しさを余すことなく使ってくれますからね」と村瀬さん。ジビエ料理は、自分の領地で狩猟をするフランス王侯貴族の伝統料理で、昔はそのような貴族しか口にできなかった貴重なものでした。骨やすじ肉も野菜とともにじっくり煮出し、ソースのベースを作るなど、自然が育んだ尊い生命に感謝を捧げ、部位を余すことなく使うという精神があります。

村瀬さんと樋口総料理長

村瀬さんと樋口総料理長

取材中に村瀬さんの携帯が鳴り、知り合いの猟師から檻に獲物を捕らえたと連絡が。「きっと良いものが入ったのでしょうね」。樋口総料理長は「生産者さんとの繋がりはとても大切ですね。生産者さんあっての料理人です。海や山の環境を守り自然のいただきものを大切に料理すること。私はそれをとても大事に考えています」と想いを語りました。

村瀬さんと樋口総料理長の料理へのこだわりや熱い想いを持った者同士の繋がり。豊かな伊勢志摩の山が育てた良い素材は、関わる人の想いとともに、良い料理となって、お客様へと届く一皿になっています。

伊勢志摩の森で育ち、バンビ商会のこだわりが詰まった鹿肉の様々な部位を味わう一品。目利きされた鹿肉は低温調理を施し、バターで焼き香り付け。鹿肉の部位により異なる肉質をお愉しみいただけます。フィレは繊細な赤身の柔らかさを堪能でき、スライスされたモモは噛みしめる程に旨みが口に広がります。鹿肉の代表でもある背ロースは、赤身の持つ深い味わいとほのかな甘み、しっとりとした上品な食感が特徴。肉をおいしく、シンプルに食べてもらうため、鹿の骨と肉から取った出汁をソースに合わせます。

伊勢志摩ジビエのコンソメスープは、鹿を半頭で仕入れることで得られる骨でベースとなるブイヨンを取り、スネ肉や端肉をたっぷり使い丁寧にコンソメを引くことで、雑味がなくエレガントな味わいになります。香り高いスープは一口いただくと身体にスッと入るやさしさ。
伊勢志摩ジビエを余すことなく使った料理は、伊勢志摩の森の豊かさを感じる味わいです。

場所 フレンチレストラン「ラ・メール」
ディナー 17:30~22:30(L.O.20:30)
取材日:2019年7月

伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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