2033年に執り行われる「第63回 神宮式年遷宮(しきねんせんぐう)」。

遷宮では、御装束神宝(ごしょうぞくしんぽう)が新調されるとともに、170を超える社殿が新たに建て替えられます。遷宮へ向け、伊勢市内の各町では72の奉曳団(ほうえいだん)が結成され、社殿に用いられる御用材を運ぶ「お木曳(おきひき)行事」が行われます。

そして社殿の完成後には改めて奉献団(ほうけんだん)が組織され、御正殿の敷地に白い石を敷き詰める「お白石持(おしらいしもち)行事」へと続きます。

河崎町旭通と河崎南側の奉曳車

お木曳行事では、内宮へは五十鈴川(いすずがわ)を遡る「川曳(かわびき)」、外宮へは陸路を進む「陸曳(おかびき)」で御用材が運ばれます。
一方のお白石持行事では参加者が宮川で白石を拾い、各家庭等で洗浄し神域へ奉納します。いずれも古くから受け継がれてきた伊勢を代表する民俗行事です。

お木曳行事は御木曳初式とされる「役木曳(やくぎびき)」を含め、2027年8月まで2年に渡り実施されます。
そして、お白石持行事は社殿完成後の重要な民俗行事として、各奉献団が内宮・外宮それぞれに奉納を行います。

今回はその幕開けとなる、9つの奉曳団が行う「役木曳」に密着。
なかでも2番手を担う河崎町旭通(かわさきちょうあさひどおり)と河崎南側(かわさきみなみがわ)の2団が共同で曳く奉曳車(ほうえいしゃ)を追いながら、500年以上前から続くとされるお木曳に懸ける人々の想いを取材しました。

そこには神都の誇りを大切に受け継ぐ、伊勢人の姿がありました。

朝6時、お木曳の出発地点である宮川堤に、威勢の良い木遣り唄(きやりうた)が響きます。

「エンヤ!エンヤ」という掛け声とともに、河原から引き揚げた御用材を、堤上の「ドンデン場」と呼ばれる場所で大きく上下に揺らします。

これはかつて宮川を水路として運ばれてきた名残で、揺らすことで水を切っていた様子を再現しているそうです。

御用材は坂を下り、まちへと繰り出す準備へ。
御用材を奉曳車に積み、外宮までの約3㎞の道のりを運びます。

河崎町旭通青年部長で、木遣り唄を統括する小黒真平(おぐろ しんぺい)さん。

「遷宮で使われる御用材は1万3千本。昔は木材をすべてを大八車(だいはちぐるま)で運んでいました。木材を一度に10本も積んでいた時期もあったそうです。これをやり切るにはとてつもない気力と体力が必要。木遣り唄は皆の気持ちを鼓舞したり、引き手の力をリズムで集中させる意味もあるんです」。

木遣り唄は、お木曳が始まる2年前から月に2回、公民館などに集まり、参加する子どもを含め各町で練習するそうです。

1番手を担う小川町の奉曳車

「木遣り唄ももちろんそうですが、本番に向けて、仮の木材を使い、御用材を奉曳車に積み込む練習も行っています。20年に一度の行事は前回と同じ人が担当できるとは限りません。大事な御用材を運ぶ役目に失敗は許されないので重圧も大きいです」。

と小黒さんは表情を引き締めて話します。

御用材を積み込んだ各団の奉曳車は、それぞれに飾り付けが施され、準備が整うと、伊勢音頭の演舞と木遣り唄に導かれ、ゆっくりと進み始めます。
やがて車輪と木軸が擦れ合う、低く大きな音が身体に響くように鳴り渡ります。

「これはホラ貝の音色に似せたもので、各団によって音が異なり、それぞれにこだわりがあるんですよ」。

粋な美学と、心地よい木遣り唄とともに、奉曳車は外宮を目指します。

河崎旭通 前団長の河村さん 右:団長の美濃さん

出発から約1.3㎞地点の休憩所で、今回で4回目の遷宮になるという河崎町旭通前団長の河村勇(かわむら いさむ)さんに話を伺うことができました。

「お木曳は子どものころから特別なものでした。いよいよご遷宮に向けて町が活気づきます。神宮あっての伊勢ですからお木曳は失敗できない。団長のときはプレッシャーを感じていましたが、こうして今もご遷宮に関われることは生きがいですね」
と微笑みます。

奉曳車が外宮へ向かう最終の曲がり角には、多くのカメラマンや見物客が並びます。木遣り唄にも力がこもり、引き手が綱を大きく上下左右に揺さぶる〝練り(ねり)〟も盛り上がりを見せます。御用材は外宮の北御門の鳥居前に到着。

 

河崎町旭通と河崎南側の団長のお二人

穏やかな表情で奉曳車の飾りを取り外すのは河崎町旭通団長の美濃松謙(みのう まつのり)さん。

「私たちの団が曳いてきたヒノキの樹齢はおよそ300〜400年。木曽で神宮のお宮になるために、何世代にもわたり大切に育てられ、外宮さんの御柱になります。そしてその次の遷宮の後には、内宮さんの宇治橋の鳥居にもなる重要な御用材です。この先も、形を変えながら役目を果たし続けていくのです。
木曽の方々に敬意を払いながら伊勢にお宮が建ち、参宮者が晴れやかな気持ちになる。それが、私たちのお木曳です」。

御用材を乗せた3台の奉曳車が揃うと、いよいよ鳥居の内側へと進みます。

役木曳では神域で言葉を発することが禁じられており、荷下ろし場では手などのジェスチャーのみで指示し、御用材を奉曳車から静かに運び、奉納します。

奉納を終え、笑顔を見せるのは河崎町旭通の中野興臣(なかの おきおみ)さんと興佑(こうすけ)さん。
祖父や母も木遣り唄の唄い手で、幼いころからお木曳に親しんできたそうです。

「練習は楽しいです。5曲ある木遣り唄のうち、今は3曲を唄えるので、来年には全部唄えるようになりたいです」と元気に話してくれました。

1300年以上続く神宮式年遷宮。神都に暮らす伊勢人の魂は常若の精神とともに、次の世代へと引き継がれていきます。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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