日本料理に欠かせない食材のひとつであるかつお節。
その歴史は、古代にカツオを煮て干し作られた保存食「堅魚(かたうお)」にあるとされています。

中世には燻製技術が加わり、江戸時代にはカビ付け熟成によって現在の本枯節(ほんかれぶし)へと発展しました。

製法は黒潮沿いに紀州から土佐、薩摩、焼津を中心に広がり、明治以降には、製法の改良や流通の発展によってかつお節は日本全国の食卓に欠かせない存在になりました。

黒潮の恩恵を受ける志摩も古くからかつお漁で栄えた地域です。

平城京跡から出土した木簡には、海産物を朝廷へ献上した「御食つ国(みけつくに)」としての記録が残されており、江戸時代の「諸国鰹節番附表(しょこくかつおぶしばんづけひょう)」では、志摩の「波切節(なきりぶし)」が最高位にあたる「行司」に格付けされていました。

現在も波切では、古式製法による伝統的なかつお節づくりが受け継がれています。

この土地ならではの食体験を日本料理でお届けする和食「浜木綿(はまゆう)」には、三重の各地から季節の食材が届きます。

その持ち味を引き立て、浜木綿の味わいを支えるのが、志摩産かつお節を使った「出汁」。

本特集では一椀、ひと皿に込められた浜木綿ならではの出汁へのこだわりをご紹介します。

和モダンの落ち着いた空間で、英虞湾(あごわん)を一望できる和食「浜木綿」。
浜木綿、そして志摩観光ホテルの日本料理を担当するのは、和食総料理長 塚原巨司です。
九州・関西で28年腕を磨き、2016年のG7伊勢志摩サミットでも日本料理を提供しました。
塚原和食総料理長の料理への考え方を伺いました。

「日本料理の最大の魅力は、季節を表現できることです。出汁文化が根付く関西で修業しましたので、若い頃は師匠から出汁の大切さを徹底的に教え込まれました。前任地の大阪では、出汁に合わせて食材の調理法を考えることが多かったですね」。

しかし伊勢志摩への赴任を機に、その考え方に変化があったといいます。

「伊勢海老や鮑など、この土地には鮮度も品質も一級品の食材があふれています。着任して間もない頃、波切でのかつお節づくりを見学する機会がありました。そこでは今も古式〝手火山式(てびやましき)〟でウバメガシの薪を使い、時間と手間を惜しまずにつくられていることに驚きました。志摩産かつお節はコク深く、香りも豊か。そのまま食べてもおいしくて感動しましたね」。
この出会いが、食材と出汁の位置付けを変えるきっかけになったそうです。

「地元食材の持ち味を最大限に生かす味、香り、コクの繊細なバランス。志摩産のかつお節にはそれがありました。味付けは控えめでも、料理全体に自然な奥行きが生まれるんです。また、鶏などほかの出汁と合わせても良い意味で存在感があります」。

今は主役となる食材それぞれの個性をカツオ出汁が引き出す料理を考えるようになったと話す塚原料理長の品々は、この土地で多くの食材や生産者さんとの出会いを重ねてきたからこそ、たどり着いた答えなのだそうです。

「若い頃、一番出汁は店の味を決める親方や煮方の先輩だけが任される仕事でした。浜木綿では今でも私自身が一番出汁を引いています。出汁は日本料理の基本であり、料理のベースとなるもの。難しいからこそ、やりがいと責任を感じています」。

塚原料理長が「出汁」へのこだわりが最も表れる料理として挙げるのが「吸物」です。

「吸物には、天日干しとカビ付けを何度も繰り返して仕上げる最高級の本枯節を使い、華やかな香りを繊細で雑味のない一番出汁に仕上げます」。
秋には、ふくよかな脂をまとった鱧の旨味を出汁が引き立てる一椀に。

浜木綿では、旧暦9月の「重陽(ちょうよう)」の節句には、不老長寿や無病息災への願いを込め、菊の飾り切りを施した野菜に綿に見立てた白ねぎを乗せた「着せ綿(きせわた)」の吸物をご用意しています。

「吸物は会席の中では目立たないかもしれませんが料理人の技術が表れると考えているので、お褒めいただけると嬉しいですね。お客様の記憶に残る一椀になれば幸いです」。

伊勢海老の焚き合わせでは、ムロアジやソウダガツオを合わせたかつお節の力強く濃厚な味わいに、熊野地鶏の旨味を加えます。
伊勢海老の食感と甘味を味わい豊かな出汁で際立たせています。

最後に、この土地で料理に向き合うことへの想いを聞きました。

「三重は海だけでなく、山や田畑にも恵まれた食材の宝庫です。〝志摩時間〟の取材を通して三重の各地に根付く風土や歴史、そして物語があることを知りました。そうした出会いや学びが日々料理を考える原動力となり、積み重なっています。三重・伊勢志摩の美食文化を、料理を通して届けることをこれからも大切にしていきたいですね」。

和食「浜木綿」の広々とした開放的な店内。
その一角に設けられたカウンター席で愉しむ、一日一組限定の特別会席「匠(たくみ)」は、目の前で塚原和食総料理長がひと品ずつ仕上げる特別なおもてなしが人気です。

会席の始まりは、宝石箱のように美しく並べられた伊勢志摩や三重が誇る食材の数々を料理長自らご紹介します。
魚介や季節の野菜、松阪牛、伊賀牛のブランド牛もご用意し、調理法や組み合わせをお好みでお選びいただけます。

料理長との会話を愉しみながら造り、揚げ物、焼き物と自分だけのひと皿へと姿を変えていくひと時に胸が高まります。

手際よく美しく盛り付けられる前菜、吸物では出汁の豊かな香りと旨味が広がり、日本料理の奥深さを感じさせます。

この日は、伊賀牛のフィレを伊勢志摩備長炭の炭火焼きに。
炭がほのかにはぜる音とともに香ばしい香りが立ち上ります。
三重県産の地酒やワインを傾けながら、料理人の技を間近に感じる特別な時間をお過ごしいただけます。

鮑、伊勢海老、松阪牛をはじめとした食材などをお客様の目の前で美しい一皿に仕上げます。
繊細な技で表現する日本料理の魅力をお愉しみください。

場 所 和食「浜木綿」カウンター席
料 金 おひとり様 ¥70,000

※1日1組様限定 1組につき2~4名様まで承ります。
※表示価格はサービス料・消費税が含まれております。

 
伊勢志摩の地は、ゆるやかな時間の流れに合わせて、表情を少しずつ変えながら、四季折々の味覚や色彩を私たちに届けてくれます。
そんな季節の移ろいとともに、志摩観光ホテル季刊誌「志摩時間」では、地元の文化や豊かな自然などを通じて、伊勢志摩の四季をご紹介しています。

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